目が覚めたら。
――ふに、
「………」
何か、慣れない感触。牡丹を抱いて寝ているはずの自分の手が、何か牡丹ではないものに触れている。
「…ん…」
牡丹が身じろぎをして、その背後に見えたのはゆらゆらと揺れる細長い何か。
「………」
ちょっと待て。
「牡丹。起きろ」
「ん…?」
「起きろ」
牡丹を揺すって、無理やり起こす。その間にも視界の中で揺れるもの。
ゆっくりと上体を起こし、「おはよう…」と呟いて目を擦る牡丹を見てこれは夢じゃないだろうなと疑った。
「…どうしたんだ?」
「…お前のそれ、何だ?」
きょとん、とこっちを見る牡丹。恐る恐る、俺が指差した方へ手を持っていく。
“異変“に気付いた牡丹は、さっと顔が青ざめた。
「…にゃ、」
牡丹の頭には猫耳。…その後ろには、牡丹の心情を表すかのごとく震える尻尾。
「にゃ、にゃんだこれはああぁ!!」
―――
「漫画みてぇな話もあるもんだな」
起きてから、しばらく。何とか落ち着いた牡丹と共に朝食の準備をしながら、呟いた。
「あってたまるか…というかこれはにゃんにゃ…あー! 発音もうまくいかにゃい!!」
「………」
「無言で口を押えても笑ってるのはわかるんだぞ! あー! にゃんでこんにゃ…あー!」
「普通に面白いぞ」
発音が出来ない度に頭を抱えて自己嫌悪に陥る牡丹。牡丹には悪いが、笑いを堪えるので一苦労だ。
「水と牛乳どっちがいい」
「ぎゅうにゅ…!」
ぱっと目を輝かせた牡丹は、俺の意図に気付いたのか顔を赤くして拳を握った。
「…水で」
「いいのか」
「いいもにゃにも、いつも水じゃにゃいか! あー!」
どうやら嗜好も変化してるらしい。
「マタタビは」
「いっ…らにゃい!! からかうにゃー!」
「………」
笑うなという方が無理な話だ。
―――
朝食も終わり、ソファでくつろぎながら牡丹の揺れる尻尾を観察。完璧に猫のそれだ。
「…あんまり見にゃいでくれ、恥ずかしい…」
「面白いな」
「…焦凍はどうもにゃいのか? にゃんで?」
強制的に変換される「な」の音にため息を吐きながら、牡丹はソファの端で丸くなった。
「…俺についても需要無いだろ」
「ある。少にゃくとも私には」
「いらねぇよ」
「はー…」
「………」
ゆっくりと揺れるそれを目で追う。
単純な興味だ。
――ぎゅ、
「んにゃあ!?!?」
びくぅ!! と牡丹は体を跳ねさせて弾かれたようにこっちを見た。
「しっ、しっぽ…!?」
「…悪い。痛いのか」
本人すら何をされたか分かっていないようだ。掴んだだけだが、牡丹は涙目で頬は赤くなっていた。
「いたっ…くは、にゃい…は、はにゃしてくれ…」
少し乱れた息。
…エロい。
「痛くねぇのか? なら何だ?」
ゆっくりと牡丹に近付いて、震える大きな耳を撫でた。小さな喘ぎ声が牡丹の口から洩れる。
「ちっ…近いぞ、焦凍っ…んにゃ!」
どうやらこの耳と尻尾はただの飾りじゃないらしい。
「猫はおとなしく襲われろ」
ソファに押し倒し、良い毛並みの尻尾に口を寄せる。今の自分は多分とてつもなく良い顔をしてるんだろう。
「んにゃっ…!! だ、誰か! 誰か助けてー!」
牡丹の腕を掴んで固定し、耳元で囁いた。
「助けは来ねぇ」
――かくして、牡丹は美味しく頂かれた。
20150302
―――
アトガキ
2月22日! 猫の日!
書きはじめたのはこの日でしたが書きあげたのが3月2日です
この間にテストやらなんやらあったのでほぼ忘れてました
こんなにマニアックな…需要あるのかこれ
焦凍の猫化は見たいですが裏チックになった時牡丹だと猫化を活かしきれないな…なんて冷静に考えました
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