「ほら、友達は互いの家に泊まったりするんだろう? 楽しそうじゃないか」
「………」
「明日はちょうど休みだし…」

牡丹の言葉がどんどん尻すぼみになっていく。前から薄々思っていたが、牡丹は友達が少ないと公言しているからか友達同士でのイベントや行動などに憧れている節がある。それを焦凍とするのは構わないが、時々異性ということを忘れそうな提案をされることがあるのだ。

焦凍は顔には出さず内心頭を抱えそうなのを堪え、応えた。

「…泊まるのはいいが、これから言うことを守れよ」
「…なんだ?」
「これから先、絶対に俺以外の男子を泊めんなよ」
「…? …! わかった!」

一瞬意味が飲み込めていないようだったが、大丈夫だろうか。

「…一旦帰る」

女子一人で暮らしているような家に、男物の服は期待できない。あったらあったで色々考えてしまうだろう。

「鍵は開けておくから」
「閉めろ」
「こ…怖いぞ? 焦凍」

ずい、と牡丹に迫る焦凍。あまりにも牡丹が無防備すぎるのだ。

「個性があるからそうなるんだろうが…まず自分は女だってこと、忘れんな」
「わかった、気をつけるよ…」

―――

インターホンを鳴らすと、髪の濡れた牡丹が出てきた。…理性に毒だ。

「すまない、わざわざ取りに帰らせてしまって…お風呂も先に入ってしまった」
「別にいい」

ドアを閉め、リビングに行こうとする牡丹の肩を持って胸の中に収めた。

「焦凍…?」
「(泊まれってこういう意味じゃあねぇんだろうな…)」
「ち、近い…」

風呂上がり独特の匂いを満喫して、牡丹を解放。ばたばたとリビングに駆け込んだ牡丹は、入り口から少し頭を覗かせてこちらを見ながら呟いた。

「焦凍が変だ…」
「変じゃねぇよ」
「学校ではこんなんじゃなかったぞ」
「そりゃあな。牡丹は想像もしてなかっただろ」
「そうだな…私は考えたこともなかった…」
「風呂借りるぞ」
「あ、ああ…」

焦凍が風呂を使う間、牡丹は焦凍が何を考えているかについて悩まされることになるのだった。

―――

「一人暮らしにしちゃあ広い家だな」
「ん、ああ…祖父母がな、狭いよりいいと大きめの家を充ててくれたんだ」
「…それにしても広いだろ」
「正直、持て余している」

焦凍が風呂から上がってしばらく。テレビを見ながら、二人はソファに座って寛いでいた。

「…雄英の試験でな」
「………」
「ああ、仮想敵を倒して行って何p取るかという試験だったんだが…一際大きい、0p敵というのがいてな」
「倒したのか」
「ああ、思ったより手応えがなかったな。楽しみにしていたんだが…一人逃げ遅れた女子を助けようと思って、余裕を無くしてしまった」
「やっと試験の話したな。黙ったままかと思ってた」
「聞かれないから不思議に思ってたんだが、待っててくれたんだな」

申し訳なさそうに笑う牡丹の手を掴んで、引き寄せる。牡丹は抵抗しようとしたが、男子の力には敵わない。

「隙だらけだ」
「…隙って、なんだ…」
「怖いか?」

腰に手を当ててぐい、と引き寄せる。引こうとした腕を捕まえ、指を絡ませた。牡丹の顔が強張るが、構わない。

「人を助けたんだろ。なら触っても大丈夫だ」
「そ、その理論はよくわからない…」
「別に人殺すような手じゃねぇってことだよ」
「近いぞ焦凍…!!」

額をこつ、と当てられて、動こうにも動けない牡丹は目を瞑った。ス、と腰を撫でられて肩が跳ねる。

「…怖いか?」
「…大、丈夫…」
「初めっからそう言っときゃいいんだよ」
「………」
「ヒーローになる奴が、自分の個性怖がっててどうすんだ」
「そう…だな!」

牡丹の方から、繋いだ手に力が込められた。納得の答えが出てきたので解放すると、すぐさまソファの端で丸くなった。

「焦凍には考えさせられてばかりだ」
「牡丹が考えなさすぎなんだろ」
「そう…かもな。すまない…」

焦凍はため息をつき、立ち上がった。テレビを消し、寝室はどこだ、と牡丹に聞く。

「寝室は…真っ直ぐ行って奥の右の部屋だ」
「牡丹は」
「私はソファで寝るよ、同じベッドは嫌だろう?」
「………」

嫌と言ってくれ、と顔に書いてある。焦凍は舌打ちして、牡丹を半ば引きずって寝室へ向かった。

「何で舌打ちなんだ! さすがに私でも男女共に寝るのは良くないということはわかる!」
「うるさい」
「付き合ってもないのにこういうことをするのは良くないぞ…!」
「牡丹が泊まれって言ったんだろ」
「頼んだが、一緒に寝るとは言ってない!」
「俺が寝たいから寝るんだよ」

どさ、と牡丹をベッドに放り投げ、その横に入り込む。

「ちかっ…変なところを触るな!」
「顔赤いぞ」
「むしろなんで焦凍は真顔なんだ…!」

ばたばたと暴れる牡丹を強引に押さえ込んで、腕の中に閉じ込める。

「こっち向けよ」
「…無理だ…!!」

赤くなった顔を隠そうと、両手で顔を覆って布団の中に潜り込む牡丹。腹にはしっかりと焦凍の腕が回されていて、煮るのも焼くのも好きに出来る状態だ。

「今、向いたら…本当に心臓が爆発しそうだ」
「…牡丹」

きゅ、と腕の力を込め、隙間を埋めるようにくっついた。

「…好きだ」
「〜〜〜っ!!」

ばっと腕をついて上半身を起こした牡丹は、顔を赤くして今にも泣きそうな表情。

「どうすればいいかわからないんだ!」
「どうすればって?」
「こんな気持ちは初めてだ…! 普通の友達だと思っていたのに…こうやって焦凍が近くにいると、とても緊張する」
「………」
「触られていると心地良いが、消えてしまいたくなる…」

牡丹の目からぽたぽたと滴が落ちる。焦凍は向き合って座り直し、牡丹の様子を見つめていた。

「お願いだ、私を…あまり悩ませないでくれ」
「………」

焦凍は黙ったまま、牡丹の涙を指で掬った。

「…素直になってみろよ」
「…?」
「友達だと思うから、面倒になんだろ」

優しく、牡丹の頭を撫でて髪に指を通す。

「多分牡丹がそうなってんのは、俺が友達とかいうやつじゃねぇからだ」
「………」
「選択肢を増やしてみろよ。楽になる」
「…どうすればいい?」

縋るように見つめてくる牡丹に良くない感情が芽生えるが、理性で押し込める。

「嫌じゃねぇなら、俺と付き合ってみろ」
「…どうしてそうなるんだ…?」
「多分すぐにわかる」

ぽんぽんと頭を撫でて、ベッドに横になると上から牡丹が顔を覗き込んできた。

「全く色気もない、こんな喋り方の女のどこがいいんだ? 一人で生きていく女代表だと昔言われたぞ?」
「………」
「なあ、焦凍…」
「色気は心配すんな。牡丹は結構胸あるからな」
「…!?!?」
「喋り方もあんま気にしてねぇ。むしろ動揺した時のギャップがあっていいんじゃねぇか?」
「…!?」

反応が面白い。何も言葉が出て来ないのか、口をただ開いたり閉じたりしている。その様子をただ真顔で見ていたら、視界から消えた。

「ど、どこが好きなんだ…?」
「一目惚れ」
「ひと…!?」
「だから、喋り方とかそんなもんかくれぇにしか思わなかった」
「焦凍は変わり者だな…」
「牡丹と一緒にいれんならなんでもいい」
「…!?」

寝転んだまま牡丹を引き寄せて、腕の中に収める。もう動揺しても容赦しないとばかりに、腕に力を込めて密着させた。

「焦凍…!」
「恥ずかしいのも、今の内だ」
「でも…!」
「暴れても意味ねぇよ」

しばらく暴れていたが、無駄だと悟ったのか段々大人しくなっていった。同じ方向を向いているので顔が見えないのが惜しい。

「………」
「えっ…焦凍…ふぁ、」
「安心しろ、襲わねぇよ」
「もう半分くらい…っ! 襲ってる!」

服の下に手を忍ばせ、直に腹をさすってその感触を楽しむ。膨らみを触るか否か、のところで気づいた。

「…下着つけてねぇのか」
「…ん、つけるものか?」
「俺に聞くな」
「寝る時は窮屈だから…お風呂に入った後はもうつけないが」
「へぇ」
「ふぁ…っ!」
「柔らけぇ」

牡丹はもう抵抗を諦めたのか、シーツを握り締めることで刺激に耐えていた。焦凍は、ハリのある柔らかな胸を自分の思うように揉んだり撫でたりして、牡丹の反応を楽しむ。

「充分色気あるぞ」
「んっ…しょう、と…」
「!」

名前を呼ばれて、焦凍は手を引っ込めた。ベッドから出て、ドアノブに手を掛ける。

「トイレ借りる」
「ん? ああ…」

息も絶え絶えな牡丹は、首を傾げながらもトイレの場所を告げた。

「(…エロすぎた)」

トイレのドアにもたれかかり、小さな深呼吸。自身を落ち着かせるのには、相当時間がかかった。

「頭…痛い」

牡丹は何故トイレに行ったのかわからないが、焦凍の手から逃れられたことに安心していた。まだ触られた場所に感覚は残っていて、牡丹を赤面させる。

「焦凍は顔色ひとつ変えなかったな…」

どうして平静でいれるんだ? と疑問に思う牡丹は、まだまだ男を知らない。

―――
おまけ

「こいつ…寝てんのか…」

苦し紛れのトイレから帰ってきた焦凍は、すやすやと眠る牡丹に呆れながらベッドの端に座った。

「(本当、隙だらけだな)」

三年間の片思いの結果と思えば、報われた方かと自分を納得させる。

「…拷問だな」

艶のある髪を撫で、その白い頬に手を当てる。好きな女の寝顔を目の前に自分も寝ろというのは、年頃の男子には厳しいものがある。

「…おやすみ」

小さくそう呟き、焦凍はため息をついて牡丹の隣で横になった。

20150119















―――
アトガキ

前回に続く急展開
焦凍は手がはやいですでも大事にする

男女が泊まるというのは、変な力みたいなものがあると思います
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