ヘドロに取り込まれそうな勝己を救うため、出久がヘドロへと走って行った。

「おい!! 危ないぞ!」
「誰かあの子を止めろ!」

皆が遠巻きに勝己を取り込んだ敵とそれに飛びかかる出久を見守る中、その女子は静かに前へと出た。

「………」

黒一色の制服に、黒色の長い髪。そしてその顔には―――狐の面。

周りの制止の声も聞かず、敵へと歩み寄る。

「危ない!!」

周囲の悲鳴。敵がその狐面を襲おうとしたが、伸ばされた液状の腕は氷漬けになった。

「な、なんだ…お前」
「………」

たん、と跳躍して勝己の目の前に行く。

「出久。後は…私に任せてくれないか」
「は、はい…!」

出久は声の主の正体に気づいたのか、意外にあっさりと引き下がった。

勝己にしか聞こえない声で、狐面は言う。

「苦しそうだな、勝己…力を抜け」
「(この声は…)」
「大丈夫、すぐだ」

勝己の周りが、唐突に水で包まれた。気付けば息が出来る様になっていて、敵は氷のオブジェと化していた。

「な、なんだ…あの子!」
「あの子何者だ!」

うるさいな…と呟いた女子は、勝己を肩に担いだ。

「なっ…!! 何してんだお前!」
「口を閉じろ。舌を噛む」
「はあ!?」

その時、唐突に氷の足場が伸びた。重力に負けて勝己は口を閉じるしかなかった。低く屈んだ女子は、足場を伸ばし続けてビルの屋上へと着地し、指をパチンと鳴らし氷の足場を蒸発させた。

勝己を降ろし、面を取る。隠されていたその下は、美少女と呼ぶに相応しい綺麗な顔立ちだ。

「久しぶりだな、勝己」
「なんでお前がここにいんだよ…牡丹」
「…何って、優れた個性を持った少年が敵に捕まっていると聞いたからな。火事が多かったから勝己だと思ったんだ」
「…礼は言わねえぞ」
「相変わらず自尊心の塊だな。礼はいらない、勝己が無事ならそれでいいよ」

にこ、と笑う牡丹に勝己は顔を逸らす。

「…その髪はどうした」
「ウィッグだよ。法律は厳しいからな」

銀髪は目立つ、とウィッグの毛先をもてあそぶ牡丹。

「ところで勝己、高校はどこへ行くつもりだ?」
「…雄英」
「…奇遇だな、私も雄英へ行こうと思っていたんだ」
「………」
「真似するなと言いたげだな。気にするなよ。私が入るとしても勝己の合格は変わらないだろう」

楽しそうに笑う牡丹は勝己の手を握った。その手には、黒い手袋。あまりに無邪気な牡丹に、勝己は戸惑いっぱなしだ。

「さあ、そろそろ降りようか。マスコミが勝己をお待ちだ」
「お前は」
「ん? 私はこのままビル伝いに行方をくらますよ。露出は嫌いだ」
「…俺も連れて行け」
「出久に無事を伝えてやらなくていいのか?」
「なんでデクに…」
「あの勇気は評価されるべきものだと思うが」

一声でもかけてやるんだな、と牡丹は言って勝己を隣に立たせた。

「渡った後はすぐに足場を蒸発させるからな。遅れずについて来てくれ」
「ああ」

パキィッという音ともに足場が伸びて行き、そこを走り抜ける2人。

マスコミを蒔いたところで、2人は地面に降りた。

牡丹がウィッグを取り去り、その下から現れたのは銀色の髪。

「じゃあ…次は雄英の入試会場か」
「…なんで」
「ん?」
「何で雄英なんだよ」

険しい顔で勝己は言い放った。納得いかない、という顔で牡丹を睨みつける。

「…そうだな…ヒーローになるためだ」
「ヒーローになってどうすんだよ」
「…面白いことを聞くな勝己。勝己の意図はわかるが、それとは違う答えを返そう」
「………」
「助けを求める人がいる。それを助けるに足り得るだけの個性がある。なら、ヒーローになるしかないだろう」

淡々と牡丹はそう答えた。

「次会うのを楽しみにしているよ。勝己もそうだといいが」

じゃあまた、と言って牡丹は歩いて行ってしまった。

「…くそ」

勝己は一人、壁に拳を打ち付けた。


20150116














―――
アトガキ

焦凍とって言ってるのに第一話は勝己でした
勝己らしくなかったらすみません
焦凍はもうちょっと先
あとオールマイトはこの後ちゃんと出久に声をかけました
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