「ん? あれは…」
学校から帰る途中。向かいの歩道で走っている出久を見つけた牡丹。
「出久! 久しぶりだな!」
「へあっ!? 牡丹さん!」
後ろから現れた牡丹は、軽い足取りで出久の隣で一緒に走る。
「(き、綺麗だなあ…牡丹さん)」
「さんなんて水臭い、牡丹でいいよ」
「え!?」
「同い年じゃないか」
「そ、そうだね!!」
明るく笑う牡丹に顔の赤い出久。
「ところで、出久は雄英に入るのか?」
「う、うん…!! どうしても雄英に行きたくて…おかしい…よね」
馬鹿にされるな…と出久は少し肩を落とす。誰もが自分の進路を嘲笑うか、無茶だと諭すのだ。
「何がおかしい? いいじゃないか! 出久が諦めず夢を持っていてくれて嬉しい」
「え…!」
「私も雄英志望なんだ、お互い良い結果になるといいな。今もそのためのトレーニングだろ? 出久はヒーロー大好きだもんな、私は出久のヒーロー姿が楽しみだ!」
「…あ、ありがとう…!!」
涙目になる出久。予想外のいい反応の上、自分のヒーロー姿を見たいと言ってくれる存在がいたことに驚いた。トレーニングの疲れも吹っ飛ぶほどの嬉しいことだ。
そこで出久は、この前のヘドロの事を思い出した。
「そういえば、牡丹さ…牡丹は、この前のヘドロの時狐のお面を被ってた…?」
「ああ、あれは私だ。この髪で顔までばれると間違いなく覚えられてしまうからな。一般人の個性の使用は法律が厳しい」
「すごかったよ!! かっこよかった!」
「そうか? 出久の方がすごいと思うが。あの取り巻きがいる中、よく足を踏み出したよ」
「で、でも…無茶するなって、あの後すごい怒られて」
「そのヒーローたちはヘドロに手が出なかった連中だろう。…言うは易し、だ。気にするな」
「あ、ありがとう」
「ヒーローに必要なのは困っている人がいれば助ける精神だ。出久の右に出る者はいない」
「(そ、そんなにかな…)」
牡丹はあっけらかんとそう言ってのける。まるでさも当然だと言わんばかりに。
そうして走っていると、オールマイトの姿が見えて来た。
「あ、待ち合わせだったか。長話をして悪かったな、また雄英で会おう。頑張ろう、出久」
「うん! あの…牡丹」
「ん?」
「ありがとう!!」
「………」
一瞬牡丹は呆気に取られて、満面の笑みで出久の肩を叩いた。
「何もしてないよ」
じゃあな、と牡丹は楽しそうに走っていった。出久の胸に温かいものがこみ上げる。
「(絶対に合格するんだ…!!)」
決意を新たに、出久はオールマイトの元へと向かった。
20150116
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