俺はトイレに座りながら新聞を読み、牡丹はベッドの上で暇そうに転がっていた。
「労働の時間だ!!」
「ん!?」
ドアが変わり、赤いドアが現れた。覗き窓から三白眼の目が覗く。
牡丹は初めて見る奴のようで、首を傾げながらドアを見つめていた。
「ろ…?」
「女!?」
「?」
電撃を受けたような反応をし、わなわなと震え出す。そしてああ、例の脱獄犯か…と呟く。なにをするかと思えば、そろそろとマジックハンドを差し出し、握手を求めるような素振りを見せる。牡丹は条件反射的にそのマジックハンドを握り、笑った。
「ろ、ろ、ロウドフだ!!」
「ろうどふー」
牡丹の腕をちぎらんばかりにマジックハンドをぶんぶん振り、不意に覗き窓から姿を消す。
くあぁかわいいぃとか聞こえてくるから、そういうことなんだろう。
「マトリョーシカの収納だ。…出来るか?」
「しゅうのう」
ロウドフの言ったことを反芻しながら、引き出しの中のマトリョーシカをいじる。
そして胴体が上下に分かれることに気付き、
「おー!」
目を輝かせていた。
どうやら小さい方が大きい方に収納できることに気づいたようで、おもしろがって全部収納していた。
…仕事内容に沿う事はしているから、何も手伝わないことにした。
しばらくして綺麗に全て収納され、引き出しが引っ込んだ。
「えらいぞ! その調子…ぐあっ」
見るに見兼ねて覗き窓に不要な本を投げつける。
「つ、次はヒヨコの性別選別だ!」
ロウドフはドアの下の引き出しを放った。
その中には、大量のヒヨコ。
「わあー!!」
牡丹は話を聞かず引き出しを引っ繰り返した。当然、ヒヨコは部屋中に散らばる。牡丹はヒヨコに興味津々だ。
「お、おい!」
言うことなんて耳に届いておらず、ヒヨコを手の上に乗せて破顔していた。
動物が好きなのか。
「ひよこー!!」
ヒヨコはヒヨコで牡丹の周りに群がっている。俺の足元にも群がっていた。トイレを済ませてヒヨコを掴みあげ、目線の高さまで持ってきてから、ヒヨコを見つめる。
「……」
「ピヨッ」
何も考えていないような目。
「ピヨッ」
こんなのと張り合うだけ無駄かと思い直し、未だヒヨコに囲まれている牡丹に歩み寄る。
「きれねんこー!」
両手に乗せたヒヨコをずいっと目の前に差し出される。それに軽く頷いてから、牡丹の隣に腰を下ろす。
「?」
「…牡丹」
「ん?」
群がっていたヒヨコの中から一匹取出し、♀だと判断してドアの「♀」と書かれた穴の方へ入れた。正解を告げる音が鳴る。
「あーっ!」
いーやー! と牡丹が喚くのも構わず、淡々と♂、♀に分けていく。
「!」
と、
「……」
真っ赤な唇。紫のマスカラ。青い剃り跡。
…まさかヒヨコにもニューハーフが。
「ん!?」
これには流石に牡丹も驚いていた。二人で見つめていると段々顔を赤くしだし、もじもじと気持ち悪く動く。何を思ったか牡丹は俺からオカマヒヨコをひったくり♀の方へ投げ入れた。
「……」
…優しさか?
とりあえず間違いは間違いなので不正解の音が鳴り、牡丹はロウドフに鞭で往復ビンタ…されるところだったが、右頬を叩かれた時点で俺がマジックハンドを折った。無意識にやっていたらしく、後からすまないと言ってはいたが。
「うぅ…」
鞭で叩かれたのが痛かったのか、赤くなった頬を押さえ若干涙目になりながらゆるゆると俺に抱きつく。
泣き出すのを必死に我慢しているようで、赤く腫れた頬が痛々しい。慰めるように頭を撫でてやれば、抱きつく力が強くなった。
しばらくしてドアが変わり、次はゼニロフが出てきた。
「おや、幼女趣味ですか」
幼女と呼ぶには少し成長していますが、と言うゼニロフ。
「ロウドフがさぞ歓喜したでしょうね」
「…さっさとしろ」
「はい、今回の報酬です」
ゼニロフがコインを一枚差し出してきたので受け取ろうと思ったら、親指でコインが弾かれた。腕を伸ばし、ギリギリのところでキャッチする。そのまま放っておいたらトイレに一直線だった。
「…お前」
「すみません、コインを弾くのが癖なもので」
喉の奥でくつくつと笑いながらそそくさと姿を消すゼニロフ。次に会ったら殴ってやると心に決めて、掌のコインを確認した。
「牡丹」
「ん?」
顔を上げた牡丹に、今しがたキャッチしたコインを差し出した。牡丹は目を輝かせ、
「お前のコインだ」
「…こいん」
牡丹ははにかんで、嬉しそうにコインを受け取った。
「……」
少しでも痛みが和らぐように、掌で赤い頬を包む。
また、嬉しそうに微笑んだ。
20140518
―――
アトガキ
ロウドフはちょっと幼い系の女の子が好きで甘やかしたいという勝手な設定です。
ちなみにゼニロフは幼い系の女の子を調教したいという勝手な設定付き。
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