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きみなんてどうでもいいで賞

私が居酒屋に着いた頃には、お酒に弱い太刀川や風間はすっかり出来上がっていた。私のためにと空けられていた席が酔っ払い二人の間だったのは完全に嫌がらせだと思う。酔っ払いのお世話であまり飲んだり食べたり出来なかった。

「ダメだこりゃ。風間の野郎完全に寝てやがる」

テーブルに突っ伏したままピクリとも動かない風間を突きながら、今何時だろうなと諏訪が呟いた。時間を確認するためにバッグの中からスマホを取り出して画面を付けると、二宮からラインが送られてきていた。少し迷ったけれど画面をタップして既読を付ける。

「……もうすぐ11時だよ。そろそろカラオケに移動しよ」

二宮からのラインが届いていたのは7時過ぎ。私と別れてからすぐ送ったのだろう。ここで待っています、というメッセージと共にマップのスクショが送られていたけれど、私は行くなんて一言も言っていないし、さすがの二宮も来る確率が限りなく低い相手を何時間も待ったりしないだろう。

「雨が降ってるな」

千鳥足の太刀川を支えて私より一足先に店から出た東さんがポツリと呟いた。雨の中酔っ払い二人を抱えたまま移動するのは、正直に言って骨が折れる。今日はこのまま解散だろうなと思いながら、ざあざあと降る雨をぼんやりと見つめた。

「カラオケはまた今度にするか。俺は歩いて帰るから、おまえたちは四人でタクシーに乗り合わせて帰るといい」

太刀川がええー!と不満げな声を上げたけど、一番のお荷物が何を言っているんだか。タクシーを呼ぶのに電話しようとスマホの画面を付ければ、ラインのトーク画面を開いたままスリープ状態にしていたようで、先程目を通した二宮のラインが表示された。

「……、」

待っているはずがない。私と別れたあとすぐに移動したとしても、もう三時間以上経ってるし。この雨だし。あいつは後先考えずに待ち続けるようなバカじゃない。大丈夫。だから私はもう帰ろう。ちょっと飲み足りないからコンビニで酎ハイでも買って、

「天野?どうした、タクシーは呼べたか?」
「……あ、えっと」

でももし、この雨の中、二宮が私を待ち続けていたらどうしよう?

「あの、私ちょっと用事が」
「はあ?こんな時間に何言ってんだおめー」
「そうだぞ天野。女の子がこんな時間に一人で出歩くものじゃない。用事があるならそこまで送って行くから」
「すぐそこなので…!私に構わず四人でタクシー乗り合わせて帰ってください!!」

バッグの底に入れっぱなしになっていた折り畳み傘を開いて雨の中を走りながら、何で私はこんなに一生懸命走っているんだろうと思った。別に二宮が私を何時間も待ち続けようが、雨に打たれて風邪を引こうが、関係ないのに。この雨の中、あいつが私を待ち続けているわけないのに。

「……は、」

待ち合わせ場所として提示されていた店の前で、男がぼんやりと宙を見つめている。髪の毛から滴り落ちた水が黒いスーツの吸い込まれていくのを、私はしばらく惚けたように見つめていた。

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