紳士にはほど遠い
今度バスケ部に帰国子女の先輩が入部すると知ったのはつい最近のこと。何でも、すごく紳士的で優しくて爽やかでイケメンでスポーツも勉強もできる、文句のつけどころがない人なのだとか。へぇ、会ってみたいなあ。なんて考え事をしていたのがいけなかったのだろうか。
「わ、ちょ…!」
「んー?あ、ごめんなぎさちーん」
私よりも遥かに大きなあっくんには近くをちょろちょろしていた私など視界に入っていなかったらしい。ボトルがいっぱい入ったカゴを抱えていた私は急に振り返った彼に対応できず、ふらついた挙げ句転んでしまった。
「ごめんねー?ケガしてなーい?」
「いてて…。うん、大丈夫だよー」
ボトルを拾い集めるのを手伝おうとしてくれたあっくんに早く練習に戻るように告げ、一人で散らばったボトルを片付けていたとき。何気なくふと上を見上げると、体育館の二階のところから誰かがこちらを見つめていた。この時期に見学だろうか。あまり深くは考えずに再びカゴを抱えて歩き出した私がその人の真下を通ったそのとき、私の耳にクスッという笑い声が聞こえて。
「…?」
見上げるとその人は手すりに頬杖をついて、もう片方の手で私を指差した。
「スカートめくれてるよ」
「!?」
カゴを半ば投げ捨てるようにしながら慌ててスカートをおさえた…けれどよく考えてみたら私はスカートなんてはいていない。ばっと睨み付けるようにそのふざけた男を見上げると、彼は手すりを掴んだまま座り込んでおかしそうに笑っていて。
「ちょっとアンタ…!」
「こら紺野!また散らかして何してんだ!」
福井先輩の怒鳴り声に、私は慌ててボトルを拾い集める羽目になった。
prev next