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「咲菜さん、なんか今日えらくご機嫌じゃない?」

任務終了後、鼻歌を歌いながら帰り支度をしていると、ユズルからそう尋ねられた。

「えー、分かる?今日は二宮さんと焼肉に行くんだー」
「…ふうん」

私は何の気なしにそう答えたし、ユズルもユズルで特に興味がなさそうだった。

それなのにこれは一体どういう状況なのか。

「ねえヒカリ、隣のテーブルサーロイン頼んでるよ」
「マジかよ!なあカゲ、アタシもサーロイン食べたい!」
「んな高いもん頼めるわけねーだろ。おめーらもこれ見よがしに高いの頼むのやめろ」
「……文句があるならこんな店に来るな」

私たちが入店してから10分も経たないうちに隣のテーブルにやって来たのは、私を除いた影浦隊の4人組だった。しかもさっきからやたらと絡んでくる。おかげで二宮さんの機嫌がどんどん悪くなっていくので、私は胃が痛くて仕方がない。





憎悪と言うには愛が溢れ過ぎている





「に、二宮さん、次は何を飲みますか?」

いちいち聞かなくても答えは分かり切っていたけれど、隣のテーブルから飛んでくる刺々しい言葉の数々を遮るようにそう尋ねた。が、間髪を入れずに「ジンジャーエール」と返ってくる。私はすぐさま呼び出しベルを押した。誰でもいいし少しでもいいから、このギスギスした空気を乱してくれる何かが欲しかった。

「何だあれ、亭主関白かよ」
「サイテー。ああいう男はやめた方がいいよ。絶対苦労するから」
「べ、別にそんなんじゃ、」
「誰もおまえらのことなんて言ってないけど?」
「…………っ」
「まあまあまあまあ」

今ゾエが割って入ってくれなかったら、二宮さんが絶対何か言っちゃってた。斜め前に座るゾエにそっと手を合わせると、ゾエがテーブルの下で親指をぐっと上に立てた。私の味方はゾエだけだよ…ありがとうゾエ……。

「もー三人とも、さっきから突っかかりすぎ。折角のお肉が美味しくなくなっちゃうでしょ」
「てめーゾエ何しに来たんだよ」
「何ってみんなでお肉食べに来たんでしょ?た、ま、た、ま!咲菜ちゃんと二宮さんが居たからって絡みすぎだよ。いくら咲菜ちゃんのことが大好きだからって三人とも心配症なんだから」

折角のサーロインだったのに、味わう前に飲み込んでしまった。あ、うん。偶然じゃなかったよね。さっきヒカリちゃんが隣に座るとき「わー偶然だなー」って物凄い棒読みで言ってたから察してはいたけど。

「……なんか今日のカゲたち、娘が連れてきた彼氏に文句言うお父さんみたいでヤダ」

店員さんにジンジャーエールと、ついでに自分のご飯のおかわりを頼んだあと。ふと思ったことを呟くと、隣のテーブルから食器同士がぶつかるような音が聞こえた。どうやらカゲがグラスを置くときに誤って中身をお茶碗の中にぶちまけてしまったらしい。ついでに向かい側の席ではジンジャーエールを飲み干そうとしていた二宮さんが思い切り噎せていた。

「えっ、だ、だいじょうぶ……ですか?」
「…………ああ、」

おしぼりで口元を覆った二宮さんからくぐもったような返事が返ってきた。紙ナプキンを数枚取って二宮さんに差し出していると、カゲがガタン!と勢いよく立ち上がる。

「誰がお父さんだ!」
「いやもうそうとしか見えないよ」

ゾエのツッコミにカゲが言葉に詰まったので、私は思わず吹き出してしまった。

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