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「山室ー」

間延びした声に反応する間もなく、後ろからガシリと肩を組まれる。私は思い切り頭を逸らして真横に並んだ当真の顔を睨み付けた。

「おいおい、何つー反応してくれてんだ。傷付くだろ」
「近い。離れて」

渾身の力を込めて脇腹に拳をめり込ませると、当真は呻き声を上げて膝から崩れ落ちた。





真昼の無駄吠え





「……えっと、」

鋼くんは脇腹を抑えたまま呻き声を上げる当真を一瞥したあと、困惑したような視線を私に向けた。カゲと荒船はまたかと言わんばかりの顔で当真を見下ろしている。

「おめーまたやったのかよ。懲りねーやつだな」
「うっせー。山室が一人でいたから寂しいんじゃないかと気を遣ってやったんだよ」
「一人じゃないし。どっか行って」

手で払いのけるような仕草をしながらそう言うと、何を勘違いしたのか、当真はニヤニヤと笑いながら立ち上がる。ぐいっと顔を近づけて来たので、私は一歩後ろに下がって当真から距離を取った。

「ははーん、もしかして今からデートか?」
「デート?」

当真の言葉に鋼くんが首を傾げる。鋼くんの所属は鈴鳴支部だから私と二宮さんが付き合っていることはまだ知らないのかもしれない。別に隠しているわけではないけれどあまり言いふらしたい話でもないので、余計なことを言うなという意味も込めて再び当真を睨み付けた。

「山室、彼氏いたのか」

いつもの無表情の中に驚いたような表情を織り交ぜて、鋼くんが私にそう言った。これが他の誰かだったら無視してもいいけれど、鋼くんが相手だとそうもいかない。思わず言葉を詰まらせた私に、当真はさらに嫌な笑みを浮かべた。

「何だよ鋼、おまえ知らないの」
「ああ。有名な話なのか?」
「本部内ではそれなりに、な」
「へえ」

荒船の言葉に鋼くんは少しだけ目を見開いた。やめて興味なんて持たないで。これ以上追及してこないで。あとで当真なり荒船なりに聞いてくれていいからここで私に言わせないで。ていうかあんたたち本当にどっか行って。

「そうです今からデートですだからお願いどっか行って。もうすぐ来るから。来ちゃうから」
「あー?んな冷たいこと言うなって。俺らもほら、挨拶しとかねーと」
「しなくていい!本当にお願いだからあっちに行っ、」

ぐいぐいと当真を押し退けようとしたそのとき、当真の肩を押す腕から急に力が抜けた。何事かと目を瞬かせると、ぐえ、と苦しそうな声を上げる当真の襟首をカゲが引っ張っている。その向こうに見えた待ち人に、私は4人の間をすり抜けて二宮さんの背後に隠れた。

「二宮さん遅いですよ!絡まれちゃったじゃないですか!」
「……悪い」

もういい。この際知り合いの前とかそんなことどうでもいい。別に二宮さんが遅刻したわけではなく、私が勝手に早く来ただけであって、こんな文句を言うのはお門違いだってよく分かってる。分かってはいるけど、当真たちの相手に疲れたのは事実なので、このくらいの我儘は許してほしい。
二宮さんは肩越しに私を見下ろしたあと、前方の4人組を見て溜め息を吐いた。

「……だから迎えに行くと言ったんだ」
「だって二宮さんの家からうちに寄ると遠回りじゃないですか」

いやでも、こうやって待ち合わせをしなければ絡まれることはなかったかもしれない。今からあちこち歩き回るというのに無駄な体力を使ってしまった。

「山室の彼氏って二宮さんだったのか」

聞こえて来た鋼くんの声に、荒船とカゲが「馬鹿!」と鋼くんを叱りつけている。そっと二宮さんの陰から顔を覗かせると、何故怒られたのかよく分かっていないらしい鋼くんが、「当真が山室をからかって遊んでいるのかと思った」と呟く。

「……おまえら、随分楽しそうにしていたな」

頭上から降ってきた声に恐怖で肩が跳ねた。自分が怒られているわけでもないのに、二宮さんが今どんな顔をしているのか、恐ろしくて顔を上げることができない。たぶん物凄い形相で睨み付けているのだろう。
悪いのは全般的に当真だったけど止めなかった他のメンバーも同罪である。げ、と顔を引き攣らせる彼らにざまあみろと舌を出すと、二宮さんが私の髪をいつもより強い力で掻き乱して、「行くぞ」と踵を返した。

title/サンタナインの街角で


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