「知ってたか出水。二宮にJKの彼女ができたってさ」
何が面白いのか、太刀川さんさんはそう言ってニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。JKって呼び方が妙にオッサン臭い。俺はスマホに落とした視線をそのままに、どうせ咲菜さんでしょ、と返す。
「なーんだ、知ってたのかおまえ」
「いやだってあの二人秒読みだったじゃないですか。むしろやっとくっついたのかって感じ」
俺の反応が悪かったせいか、太刀川さんはつまらなさそうな顔で唇を尖らせる。そんな太刀川さんを横目に、よかったなあとしみじみ思った。
月面のうわさ話
「聞きましたよ咲菜さん。二宮さんと付き合ってるって」
おめでとうございますと言ったその瞬間、タイミング悪くペットボトルに口を付けていた咲菜さんが思い切り噎せた。大丈夫ですか、と声を掛けながら背中を擦ると、ゲホゲホと咳き込みながら恨みがましい視線を向けられる。
「……誰から聞いたの」
「太刀川さん。え、もしかして秘密にしてました?」
「そういうわけじゃないけど…」
秘密にしていたわけではないが噂になるのは好きじゃない、と言ったところだろうか。不服そうな顔でハンカチを口元に当てた咲菜さんに、そういえば、と今しがた思い出した問いを口にする。
「二宮さんと付き合い始めたってことは、蜂の巣にされる理由が分かったってことですよね?」
一瞬だけ目を見開いた咲菜さんは視線を彷徨わせたあと小さく頷いた。そのまま俯いてしまったけれど髪の間から見える耳は赤く染まっている。
「咲菜さんが気にしないならいいですけど、あれ一歩間違えるとヤンデレですからね。分かってます?」
「う、うん…」
「本当かなあ…」
すっかり照れてしまったらしい咲菜さんは俯いたまま、分かってるもん、と呟く。拗ねたような言い方だったけどその声色のせいで怒っているようには聞こえない。
「……本当にね、前は嫌だったんだよ?意味も分からないまま狙われて蜂の巣にされて、そんなに私のこと嫌いなのってすごくショックだったし…」
咲菜さんはそこで一度言葉を切ると、肩を竦めて小さく笑った。
「でも今は、あんなに分かりやすい愛情表現はないと思うから」
二宮さんも二宮さんだけどこの人も大概だな。そんな感想を抱いていると、ちょうど廊下の向こうから歩いてきた二宮さんと目が合った。二宮さんは咲菜さんと俺が一緒にいるのが気に入らないのか、顰めっ面を浮かべて俺たちの前で立ち止まる。
「二宮さん聞きましたよ、JKの彼女が出来たって」
ふざけた調子でそう言うと思い切り睨み付けられた。JKなんて言って揶揄うつもりはこれっぽっちもなかったが、二宮さんを前にするとついそんな言葉を言ってしまった。俺も人のこと言えないなあ、太刀川さんと同レベルじゃん。なんて思いながらソファから立ち上がった。
title/サンタナインの街角で
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