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※生理ネタです。苦手な方はご注意ください。










朝起きたら、女性ならば月一でやって来るアレが始まっていた。昨日の夜ああでもないこうでもないと唸りながら決めた白のフレアスカートは変更せざるを得ないだろう。万が一のことが起きた場合危険すぎる。
私は大慌てで部屋に戻ると、昨日と同じようにクローゼットの中身を片っ端から引っ張り出した。





彼想う故に我あり





今回の生理がいつもと違うと気付いたのは、防衛任務が終わった後、ラウンジで二宮さんが迎えに来てくれるのを待っていたときだった。

お腹痛い。
寒い。
ムカムカする。

朝から時間がなかったから痛み止めなんて持ってきてない。どうしよう、今から二宮さんとデートなのに。途中でドラッグストアにでも寄らせてもらおうかな。いやでも二宮さんの前で痛み止め買うなんて、それはそれでちょっと…。

「咲菜?」

考え事をしていたせいか、それとも腹痛と吐き気に気を取られていたせいか。呼ばれるまで二宮さんが来ていたことに気付かなかった。生理中なことに気付かれないように無理矢理作った笑みを貼り付けて二宮さんの隣に並んだ。今から映画を観に行くんだけど我慢できるのだろうか。

お腹は相変わらず、じくじくと痛い。



***



「咲菜?」

のろのろと顔を上げた咲菜は、俺の顔を見るとへらりと下手くそな笑みを浮かべた。明らかに顔色が悪く歩き方もどこかぎこちない。ふとした瞬間に顔を顰めたり口元や下腹を抑えたりしている。

「べつに、いつもとかわりませんよ」

体調でも悪いのではないかと尋ねた俺に咲菜はひどくゆったりとした口調でそう返した。無意識なのか、やはり下腹を抑えている。だが、それを指摘すると良くない気がして、俺はそれ以上何も言わなかった。



「ちょっとドラッグストアに寄ってもいいですか?」

隣のコンビニではなくドラッグストアに行きたいというのは、やはり体調が悪いためではないだろうか。余程辛いのか顰めた顔を取り繕う余裕すらないらしい。

「……俺が買ってくる」
「え」
「辛いんだろう。そこのベンチに座って待っていろ」
「え、いやあの」

何か言いかけた咲菜を無理矢理座らせて一人でドラッグストアに入る。まっすぐに医薬品コーナーに向かって、ずらりと並ぶ薬の数々に思わず足を止めた。
…どれを買えばいいんだ。そもそも咲菜はどこが悪いんだ。恐らく腹痛なんだろうがそれにしては顔色が悪いし、ただの腹痛であればああやって誤魔化すことでもないだろう。とりあえず痛み止めを買えばいいのだろうが、どれが一番良く効くのか分からなかった。
あまり咲菜を待たせたくない。早く薬を飲ませて楽にしてやりたい。その一心でスマホを取り出し、検索ワードに文字を入力する。

『彼女 体調不良』

検索結果にずらりと並んだ文字を見て、思わず画面を消してしまった。



***



二宮さんが戻ってくるのをベンチに座って待ちながら、私は頭ではなくお腹を抱えていた。
まさか二宮さんに生理中なのがバレたなんて。二宮さんってあれでちょっと天然なところがあるから絶対バレないと思っていたのに。やっぱりドラッグストアに行きたいなんてあからさますぎたかな。

「うううおなかいたい…」

今回の生理は何だろう。いつもここまで酷くないんだけどなあ。少なくとも吐き気まで催したのは今回が初めてだ。口元をハンカチで抑えて唸っていると、二宮さんは思っていたよりすぐに帰ってきた。

「悪い、待たせた」

二宮さんから受け取ったビニール袋は何だか重みがあった。やっぱり二宮さんは私が生理中なのに気付いていなくて、何か違うものを買ってきたのかもしれない。だってほら、ミネラルウォーターとフルーツゼリーと…。

『頭痛・生理痛に効く!』

恥ずかしくて顔を上げられない。袋を膝に乗せたまま固まっていると、隣に座った二宮さんが手を伸ばしてゼリーを取り出した。

「薬を飲む前に何か腹に入れたほうがいいだろう。適当に買ってきたが食べられそうか?」

そろりと二宮さんに視線を向ける。私と目が合った二宮さんが真面目な顔で「プリンの方がよかったか?」と見当違いなことを言うので思わず笑ってしまった。

「ゼリーで大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「……ああ」
「心配をかけてすみません。だけど薬を飲めば落ち着きますから」

だから予定通り映画を観に行きましょう。そう続けるはずだった言葉は、下腹部にそっと添えられた大きな手に気を取られてゼリーと一緒にごくんと飲み込んでしまった。

「……映画はまた今度にするか」

その言葉を聞いて、私は考えるよりも先に「いやです」と返していた。好きな人に生理中だと知られるのが恥ずかしかったのはもちろんだけど、それと同じくらい、今日のデートが無しになるのが嫌だった。だから我慢しようと思ったのに。

「薬を飲んでじっとしていれば平気です」
「ああ、だからうちで」
「治ります。いや、治します。だから」

一生懸命訴える私に二宮さんが目を瞬かせる。

「そんなにあの映画が観たいのか?」
「いや、映画云々ではなくてですね…」
「じゃあいいだろう。ちょうどうちにおまえが見損ねたと言っていたドラマの録画がある」

ん?と首を傾げる。てっきり「帰って大人しく寝てろ」と言われてるものだとばかり思っていたけれど、これはもしかして…。

「ええと…それはつまり…?」
「家族は出払っているから気にせず寛いでくれて構わない」

……もしかして二宮さん、私が生理中だからお家デートに変更してくれてる…?たしかに映画館だと好きな時にトイレに行けないし途中で薬が切れたら映画に集中できなくなっちゃうけど…。二宮さんがそんな、気を遣ってくれるなんて…。

「……お、じゃまし、ます」
「ああ」

くしゃりと髪を掻き乱して二宮さんの手が離れていく。さっきとは別の意味で恥ずかしくなって、再び顔を上げられなくなってしまった。

title/花洩


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