田崎くん、妄想する。


その週の土曜日、駅前に10時の待ち合わせだった。遅れたら何となく倉科が不安になるんじゃないかと、自分らしくもない気を使って、10分前には到着した。
待ち合わせの時間ちょうどに、倉科がやってくる。おれの姿を発見するなり、「よかった、来てた」と安堵した声で言った。そりゃあもうみたこともないような、とびきりの笑顔を引っさげて。



倉科は、映画の最中も、いちいち内容に反応して落ち着きがなかった。
おかげで、隣ばかり気になって、おれはほとんど画面をみていなかった。

「超おもしろかった!感動したし!あの女優すげえかわいくて大好きなんだーおれ」
「へえ」
本当は映画に付き合って、すぐに帰る気でいた。倉科が「お腹空いたから、ご飯食いたい」と言ってきたので、仕方なくついていくことにした。さすがにひとりで行けよとは言えなかった。いかにも「まだ帰らないで」と書いてあるような顔をしながら言われたせいで、否定の言葉がひとことも出てこなかった。
適当に入ったファミレスで、倉科は延々と映画の感想をおれに語り続ける。へえ、とか、そうだな、と相槌を打ちつつ聞いていた。倉科はすっかりいつもの様子に戻っていた。
「田崎は?」
「あ?」
「田崎は、おもしろかった?」
急に聞かれて何のことかわからなかった。すぐに映画のことだろうと気付いて、「ああよかったよ」と返した。
「へへ、それならよかったー」
「……」

どうも、おかしい。
このあいだから、おれたちのあいだに何か妙な空気が流れている気がする。
倉科はというと、デザートだと言って、少々大きめのチョコレートパフェを頬張っていた。
「……」
「な、なに?」
いつの間にか倉科のことを凝視していたようだ。スプーンを握ったまま、不思議そうな顔で見てくる。
いままで何とも思わなかったが、倉科はよく見ると、女みたいな顔立ちをしている。一年のときには、クラスの女子たちから「倉科くんってかわいいよねー」と何気に評判になっていたことを思い出す。どこがだよ、と当時は気にも留めなかった。いつもぎゃあぎゃあとうるさいし、女を見たらいちいち反応して「いまの子かわいかった!」と余計な報告をしてくるし。その上、童貞だし。まあそれは、関係ないということにしておこう。
「……いや」
「?」
そうか、こいつ童貞なのか。
おれと一緒に映画を観に行きたくて、必死で追いかけてきて、だめならいいと珍しく控え目なことまで言って。
じっと、顔を見ていると、こいつとならヤれそうだなと、とんでもないことを考えてしまった。
(さすがにやべーな……)
毎日のように近くでいちゃつくカップル(男同士)を見ているせいか、最近は欲求不満気味だった。しかもそのカップルの片割れは、惚れた相手ときた。想像してしまうのは男の性である。こいつを相澤だと思ってヤれば、いけるかもしれない。
「……ちっ、」
「え?なに?」
いまだにパフェに食らいつく倉科。
その口がほかのものをくわえこむ姿を、想像したくないのにしてしまった。おれは本格的に同性愛者になりつつある。やばすぎる。

「はあ…」
「……」
無意識にため息ばかりついていたら、少しだけムッとした表情の倉科と目が合った。もう食べ終えたようだ。
「田崎さっきからため息ばっかりだ」
「え?」
倉科にも気づかれていたらしい。
「そんなにおれといるの、嫌なの」
「……」
また、やばい雰囲気になりかけている。
「おれが無理やり誘ったから…?」
半分泣いているような声で倉科が言う。本当にこいつはここ数日でキャラが変わりすぎだ。その変貌ぶりにはついていけない。
「べつに、そんなんじゃねえって」
「じゃあなんで?」
なんでって。
そんなことはおれも聞きたい。
何とも思っていなかった倉科に、邪な感情を抱き始めているなんて信じられない。こんな気持ちになるのは相澤ただひとりだと思っていたのに。


「……なあ、おれさ、もしかしたら田崎のこと、好きかもしれない」

気づかれないようにうなだれていたら、ものすごい破壊力を持った一言が降ってきた。

ありえない。何だこの展開。
どうでもよかった友人に告白されてしまった。

 

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