君一路

星の数ほど男はあれど


私が鬼道衆に復帰してから数年が経った。私はあれから数々の任務をこなし、休むことなく鍛錬に明け暮れ、今では鬼道衆第八席の地位にまで昇ることができた。共に鍛錬してきた尚は今では親友、相棒といっても差し支えない程の仲になり、第九席としてその腕を奮っている。まあ、彼は私に位を抜かれたことに地団駄を踏むほど悔しがってはいたが。


他の仲間も着々とその地位を上げている。元々真央霊術院を首席や次席で卒業した面々だ。私と同期の皆は既に全員が五席以内に入り、ひよ里もこの間六席に昇格していた。ラブ先輩は副隊長になっているし、三番隊の大ベテランの副隊長に頭が上がらないと先日言っていたローズ先輩も副隊長入りが確実だろうと噂される三席である。そして肝心の真子はというと、とうとう卍解の修行を始めるに至ったらしい。

私が昇格すればその分だけ皆も先に進んでいく。いつまで経っても縮めたい差は中々埋まらなかった。



「いや、復帰してからいきなし席官で、たった数年でもう八席やろ?充分すぎや」

「ウチらへのあてつけかっちゅーねん!アンタが復帰する時にまだ十一席やったウチはなんやねん!十数年かけて十一やで!?」

「痛い痛い痛いひよ里さん止めて叩かないで!白助けて!」

「白は餡蜜に夢中や」

「ま、ましろー!」



そんな今日は仲の良い四人で女子会を開いている。ひよ里が昇格したお祝いも兼ねていたので自然とその手の話題になって、思わず愚痴を零せば主役のひよ里からお叱りを頂いた。


「ふはー!美味しかったー!で、なんの話だっけ!?」

「ましろ、いや、うーん…まあいっか、おかわりする?」

「する!」


即答した白の口元には餡子がついていたので拭ってやれば、リサから母ちゃんかというとツッコミをいただいた。せめて姉ちゃんにしてくれませんかね。


「せや、やっぱ女子会といえば恋バナやろ!天音最近、ぎょーさん告られとるらしいやん」

「なんやと!?こんなだるんだるん星人が!?」

「だ、だるんだるん星人…?」


なんて失礼な。私のどこがだるんだるんしてるっていうんだ。たしかに動くのが好きで書類仕事はバレないように尚に押し付けたり(バレている)、休憩中気づかれないように昼寝したり(気づかれている)、休みの日は一日ごろごろしてることもあるけどそれは皆知らないはずだ。(知っている)


「だるんだるん星人は見た目はええやろ。今も痩せてはいるけど昔よりふっくらしとるし、このだるんだるん星人の外見に釣られて〜とか多いみたいやで」

「ねえ、だるんだるん星人で話進めてくの止めない?」


しかも外見に釣られてるって、仮にも親友に向かってなんて言い草だ。ふっくらって言うけど、別にそこまで太っている訳でもない。…この前真子に二の腕の触り心地が良いと言われ殴ったことは秘密にしておこう。



「ねえねえ、天音ちんが男の子に人気なのってシンズィは知ってるの!?」

「知っとるやろ。あのハゲは天音の付き纏いっちゅーやつやからな」

「否定はできない」



真子との付き合いは今でも良好に続いている。だが、真子はちょっと過保護というか、心配性というか。まあ私の過去が彼をそうさせている訳だが。


「うーん、まあでも浮気とかは全く心配されてないよ?なんだかんだ言って私一途ですから」

「そらアンタの真子好き好き度合いは仲間内は皆知っとるけど、それで嫉妬しないかといわれると別問題やろ」


好き好き度合いとか言われて顔に熱が集まった。私はそんなに日頃から態度にだしているだろうか。そういえば、この前皆でご飯食べた時もローズ先輩に「天音は本当に真子が好きだね」って撫でられたっけ。うわ、恥ずかしくなってきたぞ。


「っちゅーかそもそも、アンタとハゲが付き合っとるって知っとる奴が少ないんちゃうか?」

「…え!?真子、副隊長で有名人なのに!?」

「あー、そうかもしれんな。アンタら二人きりでも外だと甘い空気とか出さへんやん。ここの皆が同期繋がりの友人ってことは結構広まっとるし、その延長で二人で遊んどるって思われとるよ」

「まじか…」



真子はあの見た目と言動と地位から注目を浴びる存在だし、まあ、女の子から何回か告白されてることも知っている。その度に「彼女おんねん」と断っていることも聞いていたので既に広まっていると思っていた。そもそも付き合っていることをお互い隠す気は更々無いし普通に二人で出かけたりもしていたので、ひよ里とリサの指摘は本当に目から鱗だった。


この会話の翌日に瀞霊廷全土に噂が広まり、公認になるなんて私は夢にも思わなかった。