蛆虫の巣の入り口には喜助さんが待っていてくれた。お礼を言えば軽く首を振られる。彼の隣に立ち、外の明るい世界へと一歩踏み出した。
「…っ」
「おっと、…大丈夫っスか、天音サン」
「うん。ちょっと立ちくらみが…
眩しいなぁ…」
二十年ぶりに浴びる太陽の光が私を包み込む。鼻の奥がツンとしてきて慌てて唇を噛み締めた。太陽だ、空だ、明るい、
「よく頑張ったっスね」
優しい言葉をかけてくれる喜助さんの手をギュッと握った。感謝を述べたいのに今口を開いたらきっと私の顔はグシャグシャになってしまうだろう。だから繋いだ手から伝われ、伝われと力を込めた。
「はいな、きちんと伝わってますから。さあ、四番隊に行きましょう」
久しぶりに歩く瀞霊挺は何だか少しだけ居心地が悪かった。見たこともない店が出来ていたこともそうだし、夜一さんからはこの二十年で自分を含め隊長副隊長が変わったという話も聞いている。まるで自分だけ取り残された感覚だ。いや、感覚じゃない、私は二十年間止まっていたも同然なんだ。
急に不安が襲ってくる。
ずっと皆に会いたいと思ってここまでやってきたのに、皆に会うのが少しだけ怖い。皆、どれだけ成長しているんだろう。席官になったかな?ラブ先輩達はひょっとしたら副隊長にでもなっているかもしれない。
それに、皆には私のことどう伝わっているんだろう。私はそれだけ聞かされていなかった。自分が檻理されていただなんて、できれば知られて欲しくない。アイツ危険な奴だったのか、だなんて思われていたらどうしよう。
そう考えたら急に弱気になってしまう自分が堪らなく嫌だった。決めたのに、皆がどれだけ前に進んでいようと追いついてみせる、って。学生時代サボりまくっていたのが嘘のように鍛練に励んだし、だからこそ自由を手にいれたのだ。大丈夫、もっと自分に自信を持って。
そうやって自分に言い聞かせていれば、いつの間にか四番隊の近くにまで来ていた。こっちっス、と喜助さんに隊舎入り口まで連れていかれて…
時が止まった気がした
少し先に見えるのは綺麗な金色
私が焦がれ続けた太陽
「し、んじ…」
私の発したか細い声を正確に拾った彼はこちらを振り向く。次第に見開かれていく瞳と、パチリ。視線が重なった。
「天音…か…?」