変だとは思いませんか
藍染くんの死体を見せて欲しいと頼んだ私に、当然卯ノ花隊長は理由を尋ねた。話をする前に芦矢にこの部屋一体を倒山晶で覆うように指示する。もし、私の仮説が当たっていたら。そんなことは考えたくもないが、どこに監視の目があるか分からない。
私以外の三人は難しい顔をして、私の言う“変”について考えている。
「皆さんは、藍染くんは誰かに殺害されたという認識で動かれてますよね?」
「…絶対にとは言えませんが、現場から見てその可能性が高いとは考えています。犯人は旅禍なのか別の誰かなのかということは、未だに分かっておりません」
「……今朝、殺害現場を見てきました」
壁に派手に塗られた赤。死体を見るまでもなく、この傷では生きていないということが容易に想像できた。そして実際に、藍染くんは死んでいる。
「も、申し訳ありません…それのどこが変なのでしょう…」
おずおずと申し出たのは虎鉄副隊長だ。確かにそれだけ聞けば別段不思議なことは何もない。しかし、
「藍染くんをあそこに置く利点は?」
「…え?」
犯人の陰謀に藍染くんが気がつき、口封じの為殺された。そこまではしっくりくる。だが、あそこに態々放置したままというのは何処かひっかかるのだ。
「ひっかかるって…?」
「犯人が何処の誰であれ、何の思惑があってのことであれ、あの目立つ場所に派手に曝されていた理由が思い当たらないんです」
死体を始末すれば藍染くんは行方不明の扱いを受ける。この緊急事態に隊長が行方不明となれば当然大騒ぎになり、捜索隊が構成されるだろう。しかし、藍染くんの死体が見つかり死んだことが証明された今、護挺十三隊の人員は牢にいる雛森ちゃん達以外の全員が旅禍や犯人の方に意識を向け追跡している。
「もし旅禍が犯人だとしたら、追っ手を分散できるにも関わらず私達に見つかるような場所に死体を置く理由がありません。罪と追っ手を増やすだけです。では、もし犯人の狙いが殺害そのものではなく、藍染くんの死という事実だったとしたら?」
「えっと、どういう…」
「犯人は態と、私達に藍染隊長の死を確認させたと?」
一番早く意図を汲み取ってくれたのはやはり卯ノ花隊長だった。一つ頷いて、当たって欲しくない仮説を話す。
「混乱もありましたが、今藍染くんに意識を向けている人間は限りなく少なくなりました。…考えてみたんです。
藍染くんが死んで、一番動きやすくなるのは誰か?」
芦矢がハッと息を呑む音が部屋に響いた。
「この緊急事態に藍染惣右介という駒は消えました。今一番自由に動けるのは、他でもない藍染くん自身です」