その昔、紀元前より人々は太陽を神として崇め、その太陽と同じ輝きをもつ黄金で、様々なものを形作ってきた。南米最大の帝国を築き上げた文明が創り出した黄金は、まさに太陽と同じ輝きをはなっていたという。その黄金は、色・形・サイズともに、最も優れたものだったと言われる。 そんな文明が、眠っていた国。 それが、太陽と黄金の国・ペルー。 南米最大と言われたインカ帝国、その首都が置かれた町クスコに着いたエドワード達は、今日ここで一泊するため、明日の日程を言い渡された後、それぞれ自由にクスコの町を散策していた。 エドワードは一人、クスコの町を少し離れたところにある、インカもう一つの遺跡、サクサイワマン遺跡に向かっていた。 ―――最も優れていたと言われるインカの黄金。しかし、現在それを見ることはできない。大航海時代、スペイン軍によってインカの黄金は奪われ、金の延べ棒になって持ち去られたのだと言う。 (別に黄金について聞くなら、教授も何も言わないよな?これは空想じゃなくて、史実に基づいた考えだからな) 遺跡に向かっていたエドワードは、途中、町の人々にインカの黄金について聞き込みをしていた。すると、ある老人から、インカの黄金についての噂を聞くことができた。 今からおよそ百年前、三人の大学生がインカの埋蔵金を求め、クスコの町とサクサイワマン遺跡を繋ぐといわれる地下トンネルへと足を踏み入れた。 しかし、黄金へと続くその暗闇は、彼らを死の淵へと導いた。 一ヵ月後、三人のうち生き延びていた一人が岩の隙間から差し込む光を見つけ、地上へと叫び声をあげた。 そのとき、地下トンネルをさまよい歩いていた男の手に握られていたもの、それは黄金でできたトウモロコシであった。 インカ帝国が崩壊する動乱の最中、都を飾っていた大量の黄金がこの町の何処かに隠された。 十六世紀、フランシスコ・ピサロ率いるスペイン軍がインカ帝国へと侵入し、皇帝を捕らえ、六トンの身代金を要求した。 しかし、ピサロは身代金を受け取る前に皇帝を処刑した。 その事実を聞いたインカの人々は、黄金を運ぶ途中、アンデスの山中奥深くに黄金を隠し、そのまま黄金は行方知れずとなった。 「……やっぱり黄金はもしかしたら、まだこの地にあるかもしれないのか?」 老人から話を聞き終えたエドワードは、心の底から湧いた疑問をポツリと口にした。すると老人は、エドワードの顔をじっと見、そしてそれには答えず、エドワードに問いかけた。 「お前さんは、もしその黄金があるとしたら、いったいどうする?」 その問いにエドワードは、静かに首を振った。 「いらないですよ。たとえ今、目の前にあったとしても持って行ったりしません。俺はここに黄金を探す目的で来たわけじゃないから」 老人はしばらく黙ってエドワードの表情を伺っていたが、静かに言った。 「……お前さんは、とても哀しい目をしている。わしが黄金の話しをしてそんな顔でいたやつは初めてじゃ。なにがあったか、話してみる気にはならんか?」 驚いて顔を上げたエドワードに向かって、老人はそのしわくちゃの顔をさらにクシャリとさせて笑った。その顔を見た途端、エドワードはなぜか無性に泣きたくなった。 「…俺の話なんか聞いても、つまらないだけだと思いますよ。くだらない空想の話ですから」 「この年になると、つまらんものなどなくなるのじゃよ。それにわしはこうして一日中ここに座っておる。それが一番つまらなくてのぉ。どうだ?わしにその『くだらない話』とやらを聞かせてくれんか?」 そういうと、老人はさらに笑った。その笑顔を見てエドワードは思う。 この人になら話せる。 そしてエドワードは、その胸の中に長年収めてきた想いを老人に語った。 |