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修理師その弐/政宗




「名前、あるのかな?」

一人暮らしのワンルーム。
骨董屋で出会ったお人形に心惹かれ、あれよあれよとそのイケメンはベッドの片隅の椅子に座らされていた。

「等身大だから、お人形じゃないみたい」

お人形、もとい政宗の前に立ち、女は彼の前髪に触れる。
整った顔立ちの政宗は生きている人さながら肌はしっとりとすいつくようで、血色だっていい。

「そういえばあの人」

女は佐助の言葉を思い出した。
このお人形が必要になると言っていた、橙色の彼。
もしかしたらあの人は知っていたのかもしれない。

「あなたがわたしを助けてくれるの?」

哀しそうに微笑む女のしなやかな指先が政宗の柔らかな頬をなぞっていく。


ーー毎夜見る、あの男に抱かれる夢から。



「ぁ…はう、んっ。ッ」

息苦しい眠りの意識の底、わたしを呼ぶ声がする。
それはずっと以前から忍び寄り、わたしを捉え引きずり込もうとする、あの男の声。
その声は甘く、低く、長く、重く。
毎夜毎夜飽きもせず、執念深く耳の底に囁きかけては躰に手を伸ばす。


ーーいこう。一緒にいこう。永遠に。ひとつになろう。


そう耳元で囁かれ、散々まさぐれられた躰は夢だというのに熱く火照り、感覚が戻らずに身動きもままならない。


ーーイヤ、いきたくない。生きたい。快楽に屈服するつもりはない。この世から去りたくない。


何かに弾けるように反り返りながら女の喉の奥が鳴った。
まとわりつくように、女にかぶさっていた人影が離れ、薄ぼんやりと浮かび上がる。
その人影は座る政宗の横をかすめ、次第に霧に呑まれて薄らいでいった。


「…なんだ、アレ」

石のように座り、長いこと動く気配を見せなかった政宗のまぶたが揺らめき、ゆっくりと開かれる。
凝り固まった体を解すよう手を上げ、背筋を伸ばす。
ベッドに脚を運び腰掛ければ重みできりしと音を立てる。
昏々と眠り続ける女の顔をのぞき込み、下唇を横に引っ張りにっと笑った政宗はこう言った。

「おまえ、変なものに憑かれてンのか?Ha、ずいぶんと面白そうじゃねえか」

静かに閉じられた睫毛。
夢の中での情事らしきものの余韻をまだ残す、上気した美しい頬に手を伸ばし、優しく撫でた。


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