イケメン四天王 | ナノ
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松川さんと2人で話したあの日からずっと、考えることは同じだった。言葉のひとつひとつを思い返して、あれはどういう意味合いなんだろう、と考えてみる。考えてみたが、さしていい答えは出てこなかった。
でも、確かなのは。相変わらず私は岩泉さんのことばかり考えていて、彼のことが頭から離れることなんてなくて、嫌いになるなんて到底無理だということだ。

季節は意外にも滑らかに動いて、外の景色も爽やかな緑から温かみのある赤や黄色へと変化する。乾燥や静電気が気になりだす時期でもあった。寒い、というのには大袈裟ではあるが、夏の暑さ、なんて言葉とは縁遠い季節だ。

「バレー部イケメン四天王、みんな県外らしいね〜」
「…え?」
「進路」

スマートフォンを指先で弄りながら、何気なしに友人がそう言った。脈略なく、突然。

「なんで、」
「2年のバレー部と付き合ってる友達情報」

かっこいい人はみんなどっか行っちゃうんだねぇ、と溜息を吐きながら嘆くが、私の耳にその言葉はほとんど届いていなかった。がたん、と勢いよく立ち上がる。そんな自分に自分で少し驚いていたが、この熱量はどうやっても静まらなくて。

「どこいくの」
「岩泉さんのとこ、」
「…他学年のフロア行き来するの禁止ですけど」
「でも、いま会いたい」
「なに、突然」
「わかんない、でも、」

知らなかった。春になったらあの人は遠くに行くんだ。県外っていったいどこなんだろう。バレーボールが強いところなのかもしれない。だったら、もう。

「いま行かないと…このままだと一生、後悔する」
「…なに、その少女漫画みたいな台詞」

似たようなことを松川さんにも言われたような気がする。私はやっぱり夢見がちなのだろうか。恋愛経験なんてほとんどない。恋とか愛とか、そんなものの表面しか知らない。それでもわかる。いまは、彼の元へ。

パタパタと廊下を走り、1つ下のフロアへ。3年生の視線が自分なんかに集まって挙動不審になる。岩泉さんのクラスの前に来て、教室を見渡してみるが彼の姿はなく。
どうしよう。そう考えた次の瞬間には近くにいた男の先輩に、声を振り絞って尋ねていた。岩泉さん、どこにいますかって。そうしたら彼は彼で驚いたようで、一瞬間が空いて言葉が聞こえた。

「岩泉?たぶん、及川のクラスで飯食ってるんじゃねぇかな…こっち、」

親切に隣の教室まで案内をし、岩泉〜と呼びかけてくれた。ありがとうございます、と聞こえるか聞こえないか微妙な音量の声で発してみる。というか、その時はその音量が自分に出せる精一杯の声だった。

8つの瞳がグッと集まり、いつかの日を思い出す。あれは初めて彼と唇を重ねた日だったろうか。4人それぞれがなにか言葉を発しているようだったが、うまく聞き取ることはできなかった。やっぱりいつかみたいにずんずん彼がやってくる。なにも、変わっていない。私たちの関係は、あの頃とは変わってしまったけれど。

彼の声を聞くだけで、ましてその声が言葉が自分に向けられているものだというだけで、身体中がじわじわと熱くなり、堪えきれなくて泣いてしまう。なんで泣いているの?と聞かれたら間違いなくこう答えるだろう。

好きな人と話すことができて、とても嬉しいって。ただ、それだけだ。それだけのことがこんなに幸福だなんて。
彼に告げられて、世の中にこんなにも辛いことがあったんだと気付かされた。失恋ソングも、前向きな恋の歌も沢山再生したが全然気は紛れなかった。明けない夜はない?止まない雨はない?そんな綺麗事並べないでよってそう思うくらい。

「でも、嫌いになったって、」
「嘘に決まってんだろ、なるわけねぇわ」
「じゃあ、」
「ごめん、実は県外の大学行くとこになって」

募りに募った気持ちを訴えた私に彼は折れ、真面目な顔で話してくれた。近くにいられないと、自分が自分でなくなりそうだから。私の将来を縛るわけにはいかないから、と。
そんなことまで考えていたんだ、と驚いたが、なにより嫌われていないことに、彼の気持ちが変わっていないことに安堵した。その後、私からも唇を重ねようとしたところでお預けをくらった。

「約束、してほしいんだけど」
「なんですか、」
「俺が卒業したら、一旦別れよう」
「…え?」

あの時と同じ感覚。別れよう、という言葉にここまで絶望感を覚えるとは思わなかった。戸惑う私を落ち着かせるかのように、彼は慌てて弁解する。

「ちげぇよ、ちげぇから!迎えにくるから!」

顔を真っ赤にした彼は、必死そうにそう言う。言葉が上手く出てこないようで、モゴモゴと口を動かし、ボソボソと本人にしかわからないような言葉を発しているが、それがなんなのかはわからない。でも、私だってそんなに頭が悪いわけじゃない。なんとなくわかるけど、でも。

「いわいずみ、さん?」
「だから、迎えにくるって言ってんだろ。察しろや」
「…言ってくれないと、わかんないです」
「卒業式の時に言う。今じゃねぇ」

引き下がりたくなかったが、彼の照れた表情に免じて大人しくすることにした。どうやら私たちの交際は春が来るまで延長らしい。期限付きのようだが、“迎えにくる”らしいので良しとしよう。

2016/07/16