イケメン四天王 | ナノ
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彼女と別れたんだよね?なのにダメなの?

そんな言葉にうんざりしていた。どこの誰がどこからそんな情報を入手するのかわからないが、俺と彼女が別れを選んだことはなんとなく周りに広まっていた。その影響なのか否か、よくわからないが告白、というものをされることが数度あった。もちろん今までもなかったわけではないが、最近はごめん、と断ったあとのリアクションが大抵これだった。

別れたから、とかそんなことは関係ない。俺はまだなまえちゃんが好きで、未練だらけで、全然忘れられないから。

「岩泉〜、みょうじ…さん?2年の女の子が呼んでる」

白いブレザーは、3年になった今でもあまり似合っていないと我ながら思う。及川や花巻はよく似合うのに(松川は白ブレザーというよりは制服そのものがあまりしっくりこない)なぜなんだろうか。

相変わらず4人で飯を食って、4人で雑談。何も変わらないいつもの昼休みだったのに、それをぶち壊す呼び出しだった。

「…なまえちゃん!」
「やめろ及川」

声の方に視線をやれば儚げな彼女。オドオドとしたあの子がよく他の学年のフロアに来れたな、と半ば感心した。

「なに?松川すげーにやにやしてんだけど」
「やっぱ、少女漫画みたい」

ぺこり、と申し訳なさそうに頭を下げる彼女は、美しいがどこか壊れてしまいそうな雰囲気だった。自分の言動がこうさせてしまったと思うと、胸が張り裂けそうになる。ごめん、と何度も心の中で謝罪はしていたが、それにしたって償えていないように感じた。教室の扉へ向かう。

「…ごめんなさい、急に」
「いや…場所変えるべ」
「だいじょうぶ、ですか」
「大丈夫。行こう」

何となく廊下はざわざわと騒がしく、美しい彼女は見世物のようだった。紐の色が違う上履きを履いているくらいで、後は他の生徒と全く変わらないのに、何だって言うんだ。ジロジロと彼女に刺さる視線に、なぜか俺が苛立って。

「連絡寄越したら俺が行ったのに」
「…だって、」

会ってもらえないと思ったから。
何でもう泣いてるんだよ。震える肩はやはり以前よりも骨張った感じだ。その肩をぎゅっと抱きしめてやればいいのかもしれないが、そんな資格は俺にはない。
いつか、2人で話した屋上へ続く階段だ。今思えば、全てここから始まったのだ。俺があんな風に、彼女を連れ回さなかったら、こんなに泣かすこともなかったのだろうか。彼女はあの日から何度泣いたのだろうか。考えるだけでこちらも泣きそうになる。

「…急に、ごめんなさい」
「いや、いいって。それより、よく3年のフロア来れたな」
「行かないと、話せないと思って」

ぐずぐずと鼻をすする目の前の彼女が、何を言いに来たのか俺には全く見当がつかない。別れを告げたあの日から、こうして顔を合わせたのは初めてだった。もちろん、同じ学校に通っているので廊下ですれ違ったり遠くにいる彼女の姿をぼんやりと眺めることはあったが、それでも。

「岩泉さん、やっぱり、私じゃダメですか」
「え?」
「私、岩泉さんがすきだから、また一緒にいたいです、」

心、という臓器が体内に埋め込まれているとすれば、それを素手でぎゅう、と握り潰されるような気分だった。そんなの俺だって同じだ。なまえちゃんのことがすきだし、一緒にいたい。また滑らかな肌に触れてキスもしたいし、ぎゅっと抱きしめてもやりたい。

「ちゃんと、いい彼女でいるから、今度は」
「…んなこと関係ねぇって」

なまえちゃんの問題じゃないんだ。俺の勝手な問題で、わがままで、自己的な理由なんだ。
離れて過ごせば、どう頑張ったって君のことが気になる。すぐに会いたくなるだろうし声だって聞きたい。そんな感情を抱く俺を見たら、優しい君は言うだろう。
岩泉さんと同じ、県外の大学に進学するって。
頭のいい彼女だから、そんなことはして欲しくない。自分のやりたいことを真っ直ぐ選んでほしい。だからまた俺たちが一緒に過ごすことは許されない。彼女の人生を縛ることになるから。

「岩泉さん、私、まだ岩泉さんがすきなの。これからもずっと、すきなの」

もうやめてくれ、と思った。すきな相手にすきだと言い寄られてこちらの意思が揺るがないはずがない。瞳を潤ませて、か細くも必死な声色でそう言われればグラグラとし始める。

「岩泉さん、すき、」
「あぁ、もう、わかった。わかったから」
「絶対わかってない。本当にすきなんです。岩泉さんじゃなきゃ、私」
「俺だって、」

言ったら負けだ、とわかっていたのに俺は声帯を震わせて音を出すんだ。ばかだなぁ、あの日にしたあの固い決意はどこへ行ったのやら。すきな女の子に言い寄られて崩れるなんて、俺も所詮その辺の男子高校生と全く変わらないのだ。普通の、至って普通の男子高校生なんだ。

「俺だってすきだよ、今でも」
「…え?」
「何驚いてんだよ」
「だって、すきじゃなくなったって」
「色々あんだよ。台無しじゃねぇか」

でも、でも、とうるさい口を唇で塞ぐ。あの夏の日よりも少し乾燥した彼女の唇。学校で、昼休みに何やってるんだか、と呆れたりもしたが、仕方がない。
彼女の涙を拭えることが、こんなにも幸せだとは思わなかった。目を合わせて、照れたように2人で笑った。

結局、俺たちは離れられないようだ。

2016/07/14