イケメン四天王 | ナノ
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「ねぇ岩ちゃん、あの子とキスしたの?」

答える必要があるのかないのか。ないな、と決断して着替えを続ける。熱をこれでもかと抱えた体育館は、息を吸って吐くのもしんどいくらいだ。ぼたぼたと落ちる汗は冗談みたいな量で。

「ねぇ、岩ちゃん」
「キスくらいしたでしょ?」
「あの子、結構人気あるらしいね」
「また矢巾ちゃん情報?」
「いや、渡」

よく話す3人だ。俺は一言も話していないというのに、よくも話しを進められるな、と感心さえした。とは思いつつ、3人が討論する話題には興味があるので耳を澄ます。

「なんて?」
「モテるらしいよ、綺麗な子じゃん」
「まぁねぇ。まぁまぁだよね」
「なんか色っぽいよな、高2にしては」
「それはあるね」
「おっぱい大きいっけ?」
「そうでもないでしょ」

おい、と大きめの声は自分で発したのにも関わらず自分が思っているよりも鋭くて。

「よく見たこともねぇくせにベラベラと喋んなや」
「わー、怒ってる。こわーい」
「溺愛してんな」
「わかる、重症」
「ねぇ、キスしたの?」
「…してたらどうなんだよ」

急に黙る奴らは、非常に滑稽だ。そんな状況に反応するのも面倒で、部室から去ろうとすると鞄を掴まれて前に進むことが出来なくなる。

「ちょっと待って、なにそれ、本当にしたの?」
「やり方知ってんのかよ」
「…お前ら岩泉をなんだと思ってたんだよ。高3の男だぞ」
「したとは言ってねぇよ」

キスなんて唇くっつけるだけだろ、って吐き捨ててやる。そうしたら奴らはまた目を輝かせて。

「…もうエッチしたの」
「いや、頼むそれはまじで」
「何でお前らにいちいち報告しなきゃならねぇんだよ」
「やったの?」
「…何なんだよ、んなこと聞いておもしれぇかよ」
「面白いから聞いてんの」
「…からかうなや」

3人のうざったさに付き合いきれなくなっていた。なんなんだ、こいつら。ネタがほしいのだろうか。ネタがほしいなら自分たちの方がモテるんだし、彼女くらいつくればいいだろ。

「岩ちゃんさ、あの子でぬいてんの」
「…及川やめとけ、親友失うぞ」

結局、その質問にもこの質問にも答えなかった。答える必要が感じられなかったし、それになんか、なんつーか。口にしたら全部台無しになる気がして。この夏の暑さに溶けていってしまいそうで。

「っ、ま、待って、」
「んだよ」
「待って、わかんない、」

そして今日。泣きながらそう訴える彼女がどうしようもなくいじらしくて。わかんないってなんだよ、って冷静に思いながらちょっとからかってやる。

「なにそれ」
「ん、んっ、」

口を塞いでやれば必死そうに喘いで。なんか、むらむらと込み上げるものがある。なんか、いいなって、1人で勝手に興奮していた。ごめんなって内心では思うが、この状況を捨てられない。

「ひゃ、や、」

どうするんだろう、この後。そう思いながら首筋に唇を寄せてみる。なまえちゃんの肌は、白くて熱くて。

「ん、いわいずみさ、ん…!」
「ん?」
「ねぇ、なに、待って」

ちらり、と見上げてみれば顔を真っ赤にする彼女。からかいすぎたろうか。正直に言うともっと先に進めたいのに、これ以上したら嫌われるんじゃないかって怖くもなる。

「…わりぃ、やりすぎた」

精一杯自我を抑える。そうやってパッと離れて頭をガシガシとかいた。落ち着け、ここはがっつくところじゃない。お互いのペースってものがある。
潤んだ彼女の瞳。引かれただろうか。軽蔑するような視線。こちらを警戒するように自分の身体を自分で抱えて。

「悪かったって」
「びっくりするから、やめてください…」
「元々なまえちゃんがわりぃだろ」
「なんで、」
「…もういいわ、」

緩いTシャツから覗く膨らみも、ショートパンツからのびるむちりとした太ももも、ぐっと上げられた髪のせいで見えるうなじも。こいつ、こんな色っぽかったか?あいつらとあんな話しをしたせいか?いつもよりも大胆なことをしたはずなのに、欲望は全然おさまらなくて。

「岩泉さん、ずるい」
「はぁ?」
「ドキドキさせないでください、」
「んなもん知らねぇよ」
「これ以上好きになったらどうするんですか」

そう言う彼女がとても自分の好みだった。堪え切れずにまたキスをする。
ただ、唇を重ねるだけ。
なんでそれがこんなに心地いいのだろう。全然飽きなくて、自分でも驚いてしまう。柔らかくて赤く、熱い。

2016/03/05