彼女が動くと、甘い香りがした。香水だろうか。俺には判断ができない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、走る速度を考えなかったことに嫌気がさした。こんなんだから寝坊もするし宿題も忘れるんだ。
改めて彼女をチラリと見てみる。サラリとした長い髪は毛先だけくるんと内側に…なんていうか、こう、巻いてある…のだろうか。制服はキチンと着ているがスカートは恐らく短くしているんだろうな、と思った。
唇はつやつやとしているような感じがしたが、いったい何によってそうなっているのかは俺にわかるはずがない。
「ごめん、本当」
「いえ、とんでもないです。わざわざありがとうございました。嬉しかったです」
2年の教室もすっかり平然を取り戻していた。あいつらは先に戻ったのだろうか。勝手に付いてきて勝手に帰るってなんなんだ、と思いつつ、口が勝手に動いた。止められなかった。
「名前、」
「え?」
「みょうじさんの、名前教えて」
「えっ、あ、えっと、なまえです。みょうじなまえと申します、」
なまえちゃん、と1人で呟いてみる。彼女は顔を真っ赤にしていたが、俺だって同じように赤くなっていたと思う。及川じゃあるまいし、と自分を落ち着かせた。
「行くから、コンビニ」
「はい。あの、暇な時でいいので」
「おー、じゃあ、またね」
「っ、は、はい、」
ペコペコと頭を下げる彼女が、初々しくて、妙に可愛いと思って。階段をにやけながら降りていくと、見たくもない顔が3つ。待ち伏せかよ、性格悪りぃな。
「んだよ」
「ちょっとマッキー!全然見えなかった!!」
「俺だってほとんど見えてねぇよ!」
「へー、岩泉ってあーゆーのがいいんだ。可愛い系が好きだと思ってた」
好き勝手やっててくれ、と思ったが3人からの質問が止まらない。チャイム鳴ってるから、と言っても離してくれず、途方に暮れる。
「だから!俺も名前しか知らねぇよ!名前と、クラスだけ!」
「だからそれを教えろっての」
「なんでだよ、嫌だよ」
にやにやする松川と、拗ねる後2人をおいて教室へ。あぁ、もう。なんだよこれ、なんでドキドキしてんだよ。なんで連絡先聞かなかったんだよクソが。
2016/02/20