イケメン四天王 | ナノ
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「なんか、廊下うるさくない?」

言われてみれば、確かにそうだ。混み合う購買とは違った、甲高い声がきゃあきゃあと響き、頭が痛くなるようなやかましさ。

お弁当を胃におさめ、友人とこの週末に放送された連続ドラマの感想を話し合っている時だ。急に騒がしくなった廊下が不思議で、チロリと覗いてみる。今朝も見た顔がそこにはあった。やたら人数増えてるけど。

「あ、及川さんと岩泉さんと松川さんと花巻さんだ。かっこいーい」
「…なんで全員知ってるの」
「えー、当たり前でしょ。4人ともめっちゃくちゃ人気あるよ。バレー部イケメン四天王って言われてるし」

なるほど、と事態を飲み込む。バレー部イケメン四天王ってダサくないか?と思いながらやっぱり人気なんだなぁと感心する。岩泉さんも、なんか囲まれてるし、話しかけられてるし。なんか。

「あー、花巻さんに話しかけてる子がいるー。私も行ってこよーっと」
「えっ、飲み物買いに行くって言ったじゃん」
「そんなのあとあと。3年生がうちらのフロアに来るなんて滅多にないじゃん。しかもあの4人だよ。行かないという選択肢がない」

じゃあね、と友人は騒動の中へ突っ込んで行く。すごいなぁ、みんな。なんであんな風に“あなたのことがすきです”ってオーラを出して尻尾を振って愛想を振りまけるのだろうか。自分には絶対にできない、と再確認する。
それにしてもやかましいな、とそちらを観察すれば岩泉さんに話しかける背丈の低い女の子が目に入った。あぁ、いいなぁ。私もそんな風にできたらなぁと彼に視線をやると、多分だけど、パチリと目が合った。そしてそれは間違いじゃないようで、彼は女の子の束を振り切り、こちらへやってくる。バイト先のコンビニに入ってきた時みたいに、ずんずんと向かってきて。
幾つか言葉を交わした後、きゅっと手首を掴まれた。驚く間も無く、彼が走り出すのでこちらもどうにか足を動かす。1年生のフロアを過ぎて、屋上に続く階段。びゅんびゅんと登っていくが、こちらは付いていくのがやっとで、今何が起きているのか理解をすることは到底不可能だった。2階分上がって、ようやく足が止まって。

「あ…ごめん、大丈夫?」
「あし、速いですね」

彼は全く呼吸が乱れていなかった。私はぜぇぜぇと息を吸って、吐いて。体力、なくなったなぁ。前からそんなにある方じゃないけれど。

「ごめん、急に」
「いえ…だいじょうぶ、です」

階段の段差を利用してへたりと腰をおろす。そうすると少しずつ呼吸は正常に。岩泉さんも私の一段下に座った。彼が私をほんの少しだけ見上げて言う。

「3年の、岩泉。今更でごめん」
「あ…とんでもないです。みょうじです」

どうも、とお互いぺこりと頭を下げた。なんとも言えない不思議な空気だった。心臓がバクリとうるさくて。遠くできゃあきゃあと若い女の声が聞こえるから、騒ぎはまだ続いているのだろう。

「土曜日、ありがとう。本当助かった」
「いえ、そんな…間に合ってよかったです。試合も、勝った…んですよね?」
「あぁ、そう。試合がさ、」

バレーボールの話をしている彼は、小さな子どものようで。目がキラキラしている、なんて幼稚な表現だけれど、素直にそう思った。楽しそうで、にこやかで。あの、イケメン四天王とかいう4人のことはよくわからないが、そう言われるのも彼を見ていれば納得だった。見た目はもちろんかっこいい。だけど、それだけじゃなくて。

「岩泉さん、バレー好きなんですね」
「え?」
「あ、いや、ごめんなさい。凄く楽しそうにお話するので、」
「あー…ごめん、つまんなかったな」
「いや、そうじゃなくて…なんと言うか、楽しそうで、羨ましくて」

私がそう言うと彼は思い出したかの様に制服のポケットから白い封筒を出す。一瞬なんだろう、と思ったが私が貸したお金だということがすぐにわかった。

「これ、ありがとう。本当助かった」
「…あの、いいです、それ」

一旦受け取って、封筒を2つに畳んで彼の胸ポケットに入れてやる。小銭が入っている感じがしなかったので、千円を包んだのだろうか。なんというか、律儀な人だなぁと呆れる。部活してるから、バイトだってできないだろうに。

「いや、よくねぇべ」
「わざわざ返しに来てくださったのが嬉しいので…お金はいいです。私からの…なんていうか、勝利祝い?というか」

とにかくいいです、と言って断った。彼もかなり頑固で私に封筒を押し付けようとするので、ラチがあかない。

「あの、じゃあ」

自分がこれから何を言おうとしているのか、自分で冷静に考えて勝手に赤面した。気持ち悪いって思われないだろうか。断られやしないだろうか。

「また、来てください。コンビニ」
「…え?」
「土日…あと、金曜の夜とか、働いてるんです。来てください」
「いや、それは別にいいけど」

岩泉さんがそう言ったところで授業開始5分前を知らせるチャイムが響く。2人でゆっくり、階段を降り始めた。昼休み、もう終わりか。

2016/02/20