エリートチャラリーマン | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
「…何で」
「やっほー、遅かったね」

薄手のニットにいつもの黒スキニー。ダンガリーのシャツに黒いスリッポン。ラフな通勤着。女子力ゼロの手抜きコーディネート。
及川はネクタイはもうしておらず、シャツのボタンも上から2つ外していた。

「お水、ありがとう。岩ちゃんから聞いた」
「…酔ってたんじゃないんですか」
「覚めるの早いの、俺」

むしゃくしゃする。心配した自分が、岩泉さんの言葉を反復した自分がバカだった。

「送ってく」
「酔っ払いに送ってもらうほどか弱くありませんので」
「だから覚めたって、もう」
「信用ないですよ、及川さん」
「タクシー拾っておいたから。ほら、乗って」

二の腕をガシリと掴まれて、後部座席に押し込まれる。ちょっと、と声を出したが彼に通じることもなく、及川さんも私に続いてタクシーに乗り込む。国馬駅へ、と告げた及川を思いっきり睨む。

「なんなんですか…!」
「だから送ってくって」
「だから!そんなことを聞いてるんじゃないんです」
「なに。そんな怒んないでよ。俺、なんかした?」

なんかした?と目を丸くした及川の眼球を指で潰しかけたが、さすがに傷害罪にあたると思いやめた。この苛立ちはどこに向けたらいいのだろうか。

「付きまとわないでください」
「え〜、やだよ。俺、なまえちゃん好きだし」
「及川さんモテるんですよね?もっと綺麗な人、口説いたらどうですか。そろそろ結婚適齢期だろうし」
「確かに俺はモテるから綺麗な女の子もイチコロだけど、なまえちゃんが好きだから」

話があまり通じないようだ。はぁ、とわざと大袈裟にため息をつく。バカバカしい。なぜこんな男に構わなければならないのだろうか。

「お客様、着きました」
「あぁすみません、これ、」

代金を支払った及川は、私の腕を掴みタクシーから引っ張りおろす。

「ちょっと、いちいち掴まないでくださいよ!」
「掴まないとおりないでしょ」
「おりますよ!」
「あぁ、もう。いちいち語尾に力入れないでよ」

こいつは感心するほど人を煽るのがうまい。嫌な特技を持っている男だ。どう育ったらこうなるんだ。

「…腕離してください」
「送るって言ってるじゃない」
「いいですって」
「まぁ歩きなさい。及川さんがお供しますから」
「警察呼びますよ」
「あはは、手厳しいねぇ相変わらず」
「どうせなら家までタクシーで送ってくださいよ」
「並んで歩きたいじゃない」
「勝手な価値観を押し付けないでください」

及川さんは私の家まで本当に手を離さなかった。あたまがおかしいんだろうなぁと最早感心した。ほんと、呆れる。

2015/10/20