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「ねぇ、今日22時で上がりなんでしょ?」

何杯目かのビールを5番テーブルに持って行った時だ。及川に声を掛けられる。

「何で知ってるのー、って顔だね。あの可愛げのないガキから聞いた」

飛雄のことだろう。今日出勤しているのは私と飛雄と大学生アルバイトの女の子だ。多分、及川は女の子を悪く言ったりしない。

「ねぇ、この間送れなかったし、今日送らせてよ」
「申し訳ございません、この後予定があるので」
「いないんでしょ、彼氏。なまえちゃん」

お前そんなことまで聞いたのかよ。岩ちゃん、と呼ばれている彼が及川を睨む。岩ちゃんがトイレ行ってる間に聞いたの、と爽やかに笑う及川。こいつは悪魔かなんかだろうか。悪魔、なんて可愛げのある言葉はあまりフィットしないな、と脳内で考える。

「申し訳ございません、業務と関係のないことはお返事致しかねます」
「あらそう?つれないねぇ、」

あはは、と笑う及川をぶん殴ってやりたいと思ったが、必死に口角を上げた。ピキピキと顔が引き攣るのを感じたが、もうこれ以上どうしようもない。

「お姉さんすみません、及川がしつこくて」

レジの近くで下げものをしていた私に声を掛けてきたのは及川と同席していた岩ちゃん、と呼ばれる男だった。

「あ、いえ…こちらこそ申し訳ございません。みょうじなまえと申します。えっと、岩、」
「あぁ、岩泉。あいつとはちっちぇ頃からずっと一緒で」

ぺらり、と名刺を手渡される。岩泉さんはチラリと及川さんの方を見るとポツリポツリと話す。

「なんつーか、見ればわかると思うけどあいつは軟派だし、ろくでなしなんだよ」
「はぁ、」
「でも1人の女の子に執着したりしないから、多分なまえちゃんは特別なんだと思うよ」

岩泉さんはそれだけ言うと、及川の方へ戻っていった。ほら、帰るぞとだいぶ酔っ払ったあいつの肩を叩いていた。ぐでり、とテーブルにうつ伏せる及川は、やはり端正な顔立ちと男性特有の大きな背中がよく目立った。明るすぎず暗すぎない髪は繊細にカットされているのが遠目にでもよくわかる。

「大丈夫ですか?」
「珍しいんだけどね、こいつが潰れるなんて。ちょっと休めば大丈夫だから。ごめんねなまえちゃん、面倒かけて」
「いえ…あ、ちょっと待ってて下さい」

私は休憩室の冷蔵庫にストックしてある私物のミネラルウォーターを岩泉さんに渡す。冷えたそれを彼は不思議そうに受け取った。

「及川さんに、」
「…ありがと。なまえちゃんからって伝えとく」

今度はお釣りを忘れずに渡せた。思っていたよりも早く、彼らは店を後にした。退勤まであと1時間。彼らの座っていた5番テーブルを片付けながら、岩泉さんの言葉を思い出していた。

2015/10/20