エリートチャラリーマン | ナノ
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擦り切れるくらい抱き合った。体位を変えて、ベッドで、お風呂場で、ソファで。お互いの身体を弄りあって、気持ちのいいところを探して、刺激しあって。朝を必死に拒絶した。朝になれば、彼は行ってしまうから。
それでも太陽は昇り、その光で目が覚める。不思議と疲れはなくて、及川はまだ眠っていた。

彼の顔に触れてみる。まぶた、鼻、頬、唇、喉仏。もう数日経てば、この男との距離が開く。そう思うと泣けてくるから情けない。

「…くすぐったい」
「あ…ごめん、」

んん、と声を漏らして起きた彼。わたしが与えた刺激のせいだろう。まだ眠そうな彼。謝ってはみたが、彼の顔に触れるのはやめない。

「…どしたの、」
「綺麗」
「ん?」

瞳を潤ませる私を、戸惑った表情で見る及川。困らせたくないのに、困らせてしまう。

「寂しい」
「…うん」
「ごめんね、」
「なんでなまえちゃんが謝るの」
「言わないまま送り出そうと思ってたんだけど」
「んーん。ちゃんと言ってくれて嬉しい」

及川は私の左手の指先にちゅ、ちゅと口付け、こちらの様子をチラリと覗き見る。

「及川さん?」
「…ね、気付いてよ」
「え?」
「指」

自分の指に目をやると、明らかに自分のものでない指輪。薬指。沈黙に耐えられなかったのか、及川から言葉を発する。

「…えっ、だめ?」
「どうしたの、これ」
「ジュエリーショップで買いましたよ」
「幾ら?」
「言っていいの?」
「言わなくていい」
「ですよね」

ロマンチックの欠片もない。寝ている間にはめたのだろうか。サイズはどうやって調べたのだろうか。疑問は幾つかあったが、そんなことよりも。

「ね、これ、どういう意味?」
「…察してよ」

恥ずかしそうにする及川が、いじらしい。ねぇ、と問うとベッドから抜け出し、下着だけ身につけた状態で跪いて言う。裸の王子様、とでも言おうか。私もベッドから身体を抜いて、彼の前に立ってやる。ふふふ、と笑いがこみ上げてきた。朝っぱらから下着姿で何をしているのだろうか。

「絶対、1年で戻ってくるから。その時なまえちゃんの気持ちが変わってなかったら、その、」

結婚してください。

及川はこちらを見てそう言うと、私の手のひらにキスをした。
その言葉をしっかりと理解して、薬指から指輪を引き抜き、彼の手に返す。唖然とした及川。くすくすと笑う私。

「…え?」
「一旦、返す」
「なんで」
「そんな高いの貰えないよ。及川さん、向こうで美人捕まえるかもしれないし。私予約不可だし」
「…予約不可とは」
「及川さんの気持ちが変わってなかったら、1年後にちゃんと洋服着てプロポーズしてくれませんか?」

そう言ってしゃがんで彼の唇に数度キスをする。あぁ、もう、いやだなぁ。離れたくない。

「じゃあなんで今やらせたの」
「ごめんね、ちょっと出来心で」
「…わるい女」
「でも好きでしょ?」
「うん。世界でいちばん好き」
「なにそれ」
「だいすき」

この時の及川の言葉にはズシリとした重みがあって。今までの空気のような告白とは何かが違っていた。

「俺ね、仕事も適当にやってたの。でも、今度はちゃんとやるから。本気で、真面目にやるから」
「…うん」
「だからね、なまえちゃんとは会わない」

そんなに遠い距離じゃないから、会おうと思えば会える。でも会わないことにしようって彼は言った。

「及川さんがそう言うならそうする」
「ごめんね」
「その代わり、言ったからね。1年で戻ってくるって」
「…はい」
「戻ってこなかったら岩泉さんに乗り換えるから」
「…ゾッとすること言うのやめて」

がんばってね。
そう言ってまたきつく抱きしめあって。
この体温を忘れないように、彼の声を忘れないように。全てをしっかりと確かめた。
時間はとまらないから嫌になる。及川の出発まで、あと4時間だった。

2016/02/13