エリートチャラリーマン | ナノ
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平日、時刻は20時近く。はぁ、とため息。及川徹、と書かれた名刺とにらめっこしているからだ。
会社名からして、おそらくではあるが会社員だと判断したので、この時間帯を選んだ。
11桁の番号を打ち込み、コールを始める。どくん、と心臓がうるさいのが自分でもよくわかり、それがより緊張を高めた。

「はい、」
「っ、夜分に申し訳ございません。先週の金曜日、及川さんにご来店いただきました飲食店で働いています、みょうじなまえと申します」
「あ〜、やっとかけてきた。ちょっと待って、すぐ掛け直す」

がちゃり、通話が拒絶される。はぁ?と思わず声を出してしまった。やっとかけてきたって…私はまんまと及川の策略にはまっているわけだ。情けないというか、屈辱的というか…。ほんの十数秒で折り返し。通話を繋げる。

「ごめんごめん、どうしたの?」
「申し訳ございません。私、以前ご来店いただいた時のお釣り、返し忘れてしまって…」
「…お釣り?」
「はい。なので、お返ししたいんですけど…またご来店される予定ございますか?」
「行かないよ。元々岩ちゃんが店決めたの。俺、家近い訳じゃないし」

いわちゃん、というワードは理解不能だったのでスルー。困った。面倒な事になりそうだ。

「そうしましたら、ご都合の良いお時間ございますか?私、及川さんのお勤め先伺います」
「うーん、俺、結構忙しいんだよね〜」

そうですよね、申し訳ございません、と言いつつも、私はかなりイラッとしていた。間延びした話し方に私をからかっているとしか思えない対応。

「あ、今ならいいよ」
「…え?」
「なまえちゃん、最寄駅どこ?」
「…なんでですか」
「お釣り、返したいって言ったのそっちでしょ。今なら受け取ってあげる」
「い、今からですか」
「だからこの及川さんがなまえちゃんのお家の最寄駅まで迎えに行くって言ってるじゃん」

家まで行ってもいいけど住所知られたくないでしょ?とトドメの一言。私はお願いしている立場だし、我儘言っていられない。

「…国馬です」
「ん、了解。中央口でいいのかな?」
「はい、申し訳ございません」
「じゃあ、30分後に。わかんなかったら電話して。あ、登録しておいてね」

するわけねぇだろ、と言いかけたが、適当に相槌を打って電話を切った。ここからゆっくり歩いても10分あれば着く。今日はオフで、近くのコンビニに買い出しに行っただけ。ほとんどすっぴんだった。別に気合いを入れる必要はないが、身だしなみだと思い軽くメイクを施す。
薄付きの下地にパウダーファンデーション、ブラウンのアイシャドウにアイライナー、マスカラは2・3度馴染ませる程度。コーラルのチークにピンクベージュのグロス。あっという間に15分が経過する。そろそろ出ないと。
じわりと冬が近付く時期。シンプルな白のロングTシャツにブラックのスキニーパンツ。上からライトグレーのロングカーティガン。最近いつもこんな格好ばっかりしているな。見せる相手がいないから仕方がないといえばそれまでなんだけど。

スニーカーを履こうとしたが、一瞬考え、6センチヒールのブラックのパンプスに足を入れた。部屋の明かりを落としてガチャリ、と鍵を閉める。
バカだなぁ、こーゆーところ。自分でも笑えてくるのだから仕方ない。

2015/10/19