エリートチャラリーマン | ナノ
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料理はビアンド・パスタと続き、ドルチェとカフェ。及川はブラックコーヒーを、私はウェイターお勧めのハーブティーをゆっくりと飲んでいた。

「今更なんだけど」
「なんですか」
「なまえちゃん、本当に彼氏いないよね?」
「いないよねって…どんだけ失礼なんですか」
「いたら困るから。あの男の子の嘘かもしれないでしょ、」
「もうずっといないですよ」

正直に話した。嘘で誤魔化すこともできるが、相手が及川なら話は別。きっと嘘なんて見透かしてしまうし、事実を話したところでさして問題はないと思ったからだ。

「ずっとってどのくらい?」
「高校卒業くらいですね」
「…すごく前に感じるけどなまえちゃん、20歳なんだもんね…。2年くらいか」

俺が高校卒業したのなんて8年前だからさぁ、と引きつって笑う彼。そんなに気になるだろうか。年齢差。

「及川さん、歳下嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃない。寧ろ好き。女の子はみんな好きだしなまえちゃんは別格で好き」
「でも、露骨に嫌そうですよね」
「すごく上手に無視するね」

ジェネレーションギャップを感じてしまってね、と未だ顔を強張らせている彼。及川は私が予想した通りの年齢だったので特別驚くことはなかった。

「何歳だと思っていたんですか?」
「23か24かな、と」
「大差ないじゃないですか」
「そこの差は大きいでしょう」

そんな話を引きずったまま店を後にし、新しいネクタイを買わなくちゃ、と言う及川に引き連れられて百貨店へ。メンズ用品を扱うそのフロアには煌びやかな男たちが蠢いていた。みんな及川の類似品みたいなのに、及川より格好良い男はいなかった。店員たちが決して格好悪い訳ではない。おそらく、及川が非常識なくらいに格好良いのだ。

「ねぇ、なまえちゃん。どっちが好き?」

これからの時期を連想させる赤ワインのようなレッドと、知的でモダンな印象のあるロイヤルブルー。比較的どちらもハッキリしたカラーリングだ。

「青が好きです」
「おっ、いいねぇ。ハッキリしてて」

じゃあこっちにしよう、と嬉しそうに笑う。綺麗な男だなぁと感心した。会計を済ませる彼の後ろ姿をぼおっと眺める。肩幅は広く、頭は小さい。華奢なのかと一瞬思わせるが、全体的にがしりとしており、男性的だ。腕も、足もおそらく標準以上に鍛えられている。スポーツでもやっていたのだろうか。

「ごめんね、お待たせ」
「及川さん、何かやってましたか?スポーツ」
「え?なに?興味出てきた?」
「ジムで鍛えてるんですか?」
「最近はジム行かないと運動できないからね、週に何回か行くよ。昔はバレーボールしてたんだ、岩ちゃんと。言わなかったっけ?」

あぁ確かにそうなこと言っていたかもしれないなぁと今更ながら思う。及川の話はほとんど聞き流しているので詳細は頭に入っていなかった。

「そう言えば、おっしゃってましたね」
「そうそう、今もたまーにやるよ。遊びだけどね」
「そうなんですか?」
「うん、岩ちゃんとかと。今度おいでよ」
「…考えておきます」
「あはは、やっぱりなまえちゃんは難しいなぁ。だいたいの女の子は尻尾振って付いてくるのに」
「及川さんかっこいいですからね」
「あれっ、もうすんなり認めてくれるの?」
「初めて会った時からかっこいいとは思ってましたよ。見た目は」

私の言葉を聞いて、及川は大袈裟なほど笑う。何がそんなに面白いのだろうか。

「褒められてるのに貶されてる気分」
「褒めてはいませんからね」
「やっぱり?でもなまえちゃんは可愛いよ、見た目も中身も」
「何言っているんですか。」
「ねぇ、本当にまた会ってくれる?練習試合見に来てよ」

こちらを覗き込んでそう言う彼は、可愛らしい子どものようで。ずいぶん年上なのに、そんなことを感じさせない様子だった。思わずどきりとしたが、冷静を装って答える。

「私、土日休みほとんどないですよ」
「平日の夜に練習試合あるから、それならどう?」

少し頭で考える。この男とまた会うメリットは?そもそも私は何を求めて今日彼と約束をしたのだろう。
性格以外はSランクだと思っていた。でも性格だってそう悪くはない。何よりこんなに可愛げのない私を可愛いと褒める。それが本心だとは思えなかったが。

「岩泉さんもいらっしゃいます?」
「えっ、うん。岩ちゃんもいるよ」
「じゃあ行きます」
「…なに、それ」
「この間、及川さんと飲みにいらっしゃった時、気を遣っていただいたので、お礼が言いたくて」
「なに、なまえちゃん実は岩ちゃんがタイプなの?」

焦る及川が妙に面白くて、私は1人でケラケラと笑ってしまう。ブスッとした及川。慰めるように彼に言う。

「お二人ともとってもかっこいいですよ」
「絶対俺の方がかっこいいよ」
「はいはい、そうですね」
「…心こもってない」

まだ陽は沈まない。彼の車に乗り込み、尋ねてみる。

「どこ行くの?」
「さぁ。どこだろうね」

くりりとした目が細まる。よく笑う男だ、と感心した。行き先もわからぬまま、車が動き出した。

2016/01/23