ベッドはセミダブルだろうか。シングルにしては少し広く感じたのでそうなのかもしれない。そこは彼の香りでたっぷりと包まれていた。
ソファでどろりと溶けた身体をバスルームでしゃきっとさせる。再生していた筈のDVDはいつの間にかエンディング間近だった。
「京治くんのにおいするね」
さぁ眠ろう。そんな空気になって、ベッドへ。呑気にそんなことを言うと、おかしかったのか彼は少し笑って。
「俺のベッドですからね」
「いいにおい」
そう言って彼の唇と自分の唇を重ねてみた。口内も彼の香りでいっぱいになる。くちゅりと舌が絡む瞬間は、相変わらずこちらを夢中にさせる。
「ねぇ、私には甘えなね」
「…何が、ですか」
「仕事。プレッシャー凄いんじゃないの?」
あくまでも憶測だが、一応そう言ってみた。言おうか言わまいか、迷いもしたが口にしてみると彼は驚いたような顔をして。
「あ、いや、余計なお世話だったらごめんね」
「いえ、あの、」
赤葦くんは微かに瞳を潤ませていた。あれ?とこちらも不安になる。どうしたの、と声を掛けた。
「俺、嫌われてますか」
「え?」
「自分でもわかるんです。新人なのに生意気だって。だけど、」
途切れ途切れに話す彼は、迷子になった幼稚園児のようだ。髪をふわりと撫でてやる。
「教えてもらったことを教えてもらったようにやっているだけでしょう?」
言おうとしていたことを私が口にしたせいか、彼は首をコクリと動かして。この子はとても落ち着いているし、大人っぽく感じてしまうけど、まだ22歳なんだ。社会人になってまだ半年程度のあまのじゃく。
「大丈夫だよ。秋口になればみんな認めてくれるって。僻んでるだけだから」
「でも、」
「言わせておきなよ。仕事の出来ない奴だけだから、そんなこと言うのは」
はい、と返事をする赤葦くんは、ポロリと涙を落とす。つつつ、と濡れた一筋のそれを中指でぬぐってやっる。あぁ、彼も泣くんだって妙に感心した。
「しんどいね。無理しなくていいからね」
「無理は、してないんですけど」
「大変だねぇ、賢いから」
「そんなことないですよ」
「女の子からもモテるし」
「…まだそれを言いますか」
呆れた表情の彼は、私の顔中に唇を寄せる。額に瞼、頬に鼻先、耳にも触れて唇にちゅうと吸い付く。
「見ててわかりませんか?俺、他の人なんて興味ないですよ」
「私だってそうだよ」
赤葦くんだけだよ。
そう言うと彼は幸せそうに笑って眠りについた。すぅ、と寝息は規則的で、胸に手を当てるとトクリと心音。耳と手のひらで彼の存在を感じながら私も瞼を閉じた。夏の暑い日なのに、2人身を寄せて眠るのはバカバカしいが幸福なのでいいか、と思える。やっぱり重症だ。
2016/02/19