アカアシモリフクロウ | ナノ
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新入社員の彼は、あれよあれよと仕事を覚え、じめりとした時期にはすでにほぼ一人立ちしていた。殆どの人間は秋頃からよくやくよろよろと二足歩行を始めるというのに、異常な早さだった。

「すげーよな、赤葦。また契約取ってきたらしいじゃん」
「あいつ来月あたり部内トップ取るんじゃねぇの」
「トップはないだろうけど、5本指には入るだろうな」

そんな話を耳にする日が多かった。当の本人は至って真面目に、真剣に静かに仕事に取り組む。

「なー、みょうじって赤葦と仲良い?」
「…仲良くはないと思いますよ」

指導係の上司に問われる。いつものごとくコーヒーを給湯室で拵えている時だった。彼は待ちきれなかったようで、マグカップをひょいと1つ持ち口元へ。

「あいつなんなの?」
「なんなのって何ですか」
「なんであんなに仕事出来るの」
「…ご指導が素晴らしいんじゃないんですか」

えぇ、そうかなぁなんて照れるのは演技か冗談だろう。少なくともこちらは冗談で話している。どう考えたって貴方の力ではなく赤葦京治が異常なのだ。だって貴方、私の指導係でもあったじゃない。私が一人立ちしたのは1年で1番暑い時期だったし、去年の新入社員に関しては即退社コースなのを忘れたのだろうか。

「なんか情報ないの?」
「フルネームしか知らないです。あとバレーボールやってたってことくらいですかね」
「それみんな知ってるだろ」
「お疲れ様です」
「お、噂をすれば」
「…みょうじさん、僕かわります」

戸惑った表情の彼。部内が自分の話題で持ちきりなことに気付いているのだろうか。

「大丈夫だよ」
「すみません、毎回気付かなくて」
「いいって。私の仕事だから」
「赤葦、お前すごいな」
「…何ですか」

かわります、としつこいのでコーヒーメーカーの前からよけた。ぽかん、とした彼の表情は演技だとすぐに分かった。

「また契約取ってきたんだって?」
「あー…教えていただいたように紹介したら凄く反応がよくて」

そんな筈はないだろう。全く、いい子ぶるのはいい加減にしろと叱りつけてやりたかった。

「まぁ、また頼むわ」
「はい、がんばります」

給湯室から出て行く上司。にこ、と笑う彼の笑顔はどこか怪しくて。他の人間は気づいていないのだろうか。この男の底知れぬ恐怖に。

「何の話だったんですか」
「赤葦京治は凄いって話」
「漠然としてますね」
「みんなその話ばっかりしてるよ?」

抽出されるコーヒーをぼんやり眺めながら、彼の顔もチラリと見る。

「凄くないですよ。教えていただいたことを教えていただいたようにやっているだけで」
「ふーん」
「…なんですか、その詐欺師を見るような目は」
「ねぇ、赤葦くん会社の人間とご飯行くの好きじゃない?」

勢いに任せてそう聞いてしまう。眉を下げた彼は素直に言う。

「それ、なんて答えればいいんですか」
「私と一緒もいや?バーベキューの時のお礼したくて」

精一杯あざとい声を出して、きょろりと彼を見上げて言ってみる。こんなことしたって無駄なことはわかっているが、努力くらいはさせていただきたい。

「…本当、貴方は、」
「え?」
「嫌じゃないですよ。いつにしますか?」
「いいの?」
「明日にしますか?」
「…はい」
「楽しみにしてます」
「っ、き、嫌いなものある?」
「特にありません」

そう答えて、コーヒーを淹れ終えるとすっと給湯室から出て行ってしまう。
楽しみにしてます、って言った。あの、赤葦京治が、だ。

2016/02/01