ミヤギにハマってさあたいへん | ナノ
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明日、登校日なんです
宮城先輩部活ですか?ちょっとだけ会えませんか?
一昨日だろうか。ちかちかと光った宮城のスマートフォンに、可愛いメッセージが届いたのは。むくっと起き上がり、明日は十五時まで練習だったな……とスケジュールを思い出し、素早く返信をしようと文字を打ち込み始め、やめる。タタタタっと消去して、通話をタップした。無機質な数度のコール。繋がって、遠慮がちな「もしもし、」が聞こえた。

「いまへいき?」
「はい、へいきです、あの、」

嬉しいです、こえ聞けて。
早速、可愛い言葉が耳に届く。なんの装備もしていなかった宮城だ。それを見事に喰らう。うっと倒れ込みそうになるが、どうにか持ち堪え溢れ出そうな「オレも嬉しい」を懸命に飲み込む。

「電話くらい、いつでもしてくればいいのに」
「緊張しちゃうんです、勇気がたくさん必要で……あと宮城先輩お忙しいですし」
「お忙しくないって。あ、明日部活、十五時までなんだけど」
「そうなんですね。私、昼過ぎ……何時までだっけ、プリント……っと、あ、一応予定は十三時までなので、」

あ、時間ぜんぜん合わねえじゃん。
宮城はガックリしたがすぐに言葉がやってくる。待っててもいいですか?と、間髪入れず。

「宮城先輩が部活終わるの待ってたいです、あ……あの、あと、ちょっとだけ練習観に行ってもいいですか?静かにしてるので、」
「……いーの?」
「ん?」
「時間、」
「はい、え?時間?」
「待たせちゃうから」
「課題全然終わってないので、宮城先輩待ってる間にやります。でも、宮城先輩いいんですか?ほぼ一日部活なのに……疲れちゃいますよね?」

こちらを気遣ってばかりのナマエは、健気で可愛らしかった。後輩って本来、ただただシンプルに可愛いものなんだと、毎日顔を合わせている可愛いけど可愛くないあいつらを思い出しながら思う。耳に届く声は鈴の音のように心地よいし、発せられる言葉の一つ一つが、宮城の身体にじわじわっと沁みる。

「オレはぜんぜん。ナマエちゃんに会えればそれで」

あ、嬉しい。そう感じたナマエが紡ぐ言葉は、非常に、とても、素直だった。

「……宮城先輩、好きです」

突拍子もない「好き」に宮城は再び被弾する。いつやってくるかわからないそれは、避けようがなくて。嬉しいからもっと言ってほしいと、照れ臭いから言わないでほしいが共存する、なんとも形容し難い感情を抱く。

「……ナマエちゃん、好きって言うの好きだね」
「……だって、好きなんですもん」

先日も散々聞いた。好き、大好き。そのたった数文字になぜこんなにも心音を狂わされなきゃならないのだろうか。宮城は頭を抱え込みたくなる。「オレも好きだよ」と言えばいいのだろうが、小っ恥ずかしくて言えやしない。なのでとっとと話題を逸らす。

「あ、この間さ、試合来てくれた時……、つーか時間だいじょうぶ?ごめん、急に電話して」
「あ、はい、すごい暇だったので、幾らでも」
「ふはっ、ナマエちゃん暇なの?」
「暇です、ずっと宮城先輩のこと考えてます」
「……なに言ってんの」
「ほんとのことなんです、」

顔が見えていないせいか、それとも宮城に会えていなかったフラストレーションが溜まりまくっていたせいか、突然の電話にテンションが狂っているのか、ナマエは先ほどからずっと、浮かんだ言葉をそのまま吐く。宮城はそれにドギマギし、顔が綻ぶが、声は精一杯、平然を装った。電話って便利だ。顔が見えないから、幾らニヤついたって平気だ。いい文化だと痛感する。

「でさ、この間……言ってたじゃん?試合終わった後、今まで見てなかったの悔しいって」
「……また試合も、観に行っていいですか?」
「ん、もちろん。つーか、時間あったら見に来て。今まで見てなかった分、いっぱい来てよ。オレも試合の日程とか教えるね」
「っ、はい、ぜったい行きます、応援しますっ」
「あんまり可愛い格好してきちゃダメだからね」
「……でも、宮城先輩に可愛いって思ってもらいたいんですもん」
「…………もうじゅうぶん可愛いと思ってんだけどなー」

なんかナマエちゃん、あんまわかってないっぽいけど、オレ、めちゃくちゃ好きだからね?
やっと吐き出した男からの格好つけた「好き」に、ナマエはフリーズ。宮城が何度か名前を呼んでも、反応を示さなかったほどだ。あーあ、なんで電話なんだろ。直接言って欲しかった。宮城先輩、どんな顔で言ってくれたんだろう。通話を終了させ、ベッドにぼすっと沈み、思う。やっぱり、私ばかり好きみたいだと、随分勝手なことを、思う。

* * *


登校日。まだ二年だというのに受験対策だのなんだの、言い出さないで欲しいとナマエは思うが、宮城に会うきっかけになったのでどうだっていい。それを時間通りに終わらせ、練習を見学しに体育館へと向かう。ボールが弾む音、バスケ部員の元気な声、バッシュが床をキュキュッと鳴らす。ひょこっと、覗く。なんだか悪いことをしている気分になる。すぐに見つけた宮城は、相変わらず麗しい。なるべく気付かれないよう、彼の、部員たちの邪魔をしないよう、隅でこっそり練習を眺めていた。

「……どうしよう。今日もほんっと、格好いい」

ひとりでボソッと、吐く。そうしなければ破裂しそうなくらい、想いが募るのだ。こそこそとしていた彼女だが、宮城はちゃんとギャラリーにいるナマエに気付いていたし、なんなら他の部員もちゃんと気付いていた。休憩時間にはひらひらっと、手を振ってやる。顔を真っ赤にして、慌てたように、気まずそうにペコっと頭を下げるナマエにほろほろっと表情がくずれそうになるが、部活中なので平然を装う。こんな様子だからたぶん、ナマエはいつまで経っても、わからないのだ。
自分が宮城を途轍もなく好きでいるのと同じくらい、宮城もナマエを好きだって、いつまで経ってもわからない。
あまり長い時間居ても迷惑だろうと、いつかみたいに宮城のスマートフォンにメッセージを届け、体育館を後にする。教室で課題してます、終わったら来てもらえますか?と。「格好良すぎてこれ以上見ていると頭おかしくなりそうなので」という前置詞は、気が狂っていると思われそうなので省く。
そして、バスケ部の練習が終わり、宮城はいつの間にか姿を消していたナマエを心配に思いつつも、スマートフォンにぽつんと連絡が入っていたので安堵した。校舎、彼女のクラスを目指す。階段を上っているときゃあきゃあと楽しそうな声。夏休みだというのに生徒がいるのだろうか。そう思い賑やかな教室を覗くと、友人何人かと楽しげに話している彼女を見つけ、話しかけようかどうしようか躊躇う。すぐにその中のひとりが宮城の存在に気付き、ナマエの肩をポンっと叩く。彼氏、来たよってものすごく楽しそうに、伝える。ナマエの周りに居た女生徒たちは「私たち行くねー」と彼女に残し、宮城には「すみませんお邪魔しましたぁ」と伝え、引き続き楽しそうな声を校舎に響かせてわらわらっと去る。宮城は思う。なんだこれ、めっちゃ恥ずかしいんですけど。

「宮城先輩、」
「お待たせ」
「ぜんぜん、お疲れ様でした」
「課題、どお?」
「え、あ……そんなに、進んでないです」

ゆっくりとナマエの掛ける席に近付き、彼女の前の席の椅子をギイっと引く。座って、身体ごとくるっと彼女の方を向く。途端、思う。あーあ、同じ学年だったら普通に日常的に、こういうことできんのか。いいな、それ。宮城はそう思ったし、ナマエもだいたい、同じようなことを思って、更に、声に出した。

「私、宮城先輩と同じクラスがよかったです」
「え?」
「同じ教室で勉強して……あと、席替えで席近くなって嬉しくなったりしたかったです」
「……うれしくなったりしたかったです?」
「ふふ、日本語変ですかね?宮城先輩が斜め前だといいなぁ。ずっと眺めてそうです」
「……留年しよーか?」
「っ、そうじゃないんですけど」
「それにオレ、ナマエちゃんが同じクラスにいたら授業、ぜんぜん集中できねーよ」

今もそんなに集中してないけど、尚更。
ヘラヘラっと笑う宮城に、ナマエはなんだかもう、たまらない気持ちになって。恥ずかしい、をたっぷり抱え込む彼女を横目に、宮城は質問を渡す。

「つーかごめん。さっき、邪魔した?」
「いえ、寧ろ助かりました。宮城先輩のこと色々聞かれて、ちょっと困ってたので」
「オレ?なに話してたの?」
「一人で課題してたんですけど、補修の子たちが隣のクラスで授業あったみたいで、ちょっと話してて、宮城先輩のこと聞かれて……バスケ部って流川くんが目立ってるし格好いいと思ってたけどナマエの彼氏も格好いいねって言われて、ほらー宮城先輩やっぱモテるじゃんーって」

ちょっとムッとしちゃって、嫉妬してたら宮城先輩がいらっしゃって。
特に恥ずかしげもなく彼女は告げる。この子、思ったことそのまま声に出すようになってんな。付き合ったからか?出会った時はもう少し色々、飲み込んでいる感じだったのに。宮城は喜ばしい困惑に包まれ、声も出せず。

「で、バスケしてる宮城先輩見たことある?って聞いたんです。ないって言ってたから、見ないでって思っちゃいました。好きになっちゃうといやだ、から、っ」

滑らかに動く唇に、宮城の指先が触れる。じいっと見つめられ、今度はナマエが困ってしまう。バチっと視線が合うと、宮城は小さく謝罪をし、立ち上がる。「帰ろっか、送ってく」と短く告げる。あ、キス、してくれないんだ。ナマエはそう思ったし、そして声に出していたようだ。その証拠に、宮城は驚いた表情で勢いよく振り返る。己の失態に気付いたナマエは、ごめんなさいと必死に謝罪を。

「すみません、すぐ荷物纏めるので……帰りましょう」
「……なんて言った?」
「えっ、あっ、いえ、なにも」
「キス、してくれないんだって」

言った?
立ち上がったナマエにずいっと、宮城は攻め寄る。彼の手のひらが頬を撫で、愛おしそうに擦る。そうされるともう、嘘も吐けず、誤魔化すこともできず。

「……ごめんなさい、言いました」
「したいの?」
「え?」
「していいの?」

チロチロと視線を泳がせる女からは「していいに決まっている」が滲んでいたが、宮城は本当に「超」親切なので言葉を聞くまで重ねたりしない。だって、一応学校だ。いや、まぁ、この間も保健室でしてしまったわけだが、アレは色々、感情が昂っていたわけで……。
野球部が奏でる、金属のバットとボールがぶつかりキィンと響く音。吹奏楽部のチューニング。どこかで響く生徒の笑い声。さっきここにいた子たちだろうか。ひょっとすると隣の教室に居るのかもしれない。そんな状況だ。だから、最大限彼女を気遣ったわけだが、その気遣いを精一杯背伸びをしたナマエに破壊される。宮城の、唇の、すみっこ。ふにゅっと口付けてきた彼女に、男はちょっと怒っていた。暫く黙って見下ろす。不安げな瞳が宮城を捉え、離さない。宮城先輩はしてくれないんですか?と言われているようで、この状況を心配していた自分が馬鹿みたいで。ぷちん、と切れたのはたぶん理性の糸だと思う。そこから宮城は、狂ったように彼女にキスを落とした。どんどん長く、深くなって、舌が絡み、鼻にかかった声を漏らすナマエが可愛い。脳がどろっと蕩け、思考が鈍るのを感じる。

「みやぎせんぱ、っ……っ、ん、んっ」

砂糖をくつくつ煮詰めたような甘ったるい声が、宮城のパキパキっと割れていた思考回路をこれでもかと細断する。二年の教室、夏休みとはいえ、いつ誰が来るかわからない。そんな中、夢中で唇を重ねた。呼吸の為、いっしゅん解放すると、その狭間で虚ろに自分の名を呼ぶ。ぷはっと必死に酸素を補給しながら、どうにかついてこようとする可愛いナマエ。ふと、先日のワンピース姿の彼女を思い出し、二の腕に手を伸ばす。女の身体がビクッと震えた。摩る。柔らけっ、なんだよ、コレ。昂りを感じ、宮城は千切れていた理性の糸の端と端を手繰り寄せ、適当に、力任せにぎゅっと結びつける。これ以上こうしていたら、たぶん、ぜったい、やばい。それがわかり、距離を取る。もっとこうして、ぴたっと寄り添っていたかったナマエは、ぼうっと突っ立って彼を見つめる。宮城の心情など知ったこっちゃない。だから「え?なんで?やめちゃうんですか?」みたいな顔で、熱烈な視線を。宮城は、やるせないをたっぷり抱え込んでいた。開けていた窓、むわっとした風が入り込み、カーテンがふわふわ、二人を嘲笑うかのように、楽しそうに踊る。

「……ごめん」
「なんで謝るんですか、わたし、っ」
「そのカオ、やめて」
「っ、え?ご、ごめんなさ、っ……で、でもっ、その顔、って言われても」
「そんな、もうしない?みたいな、……すげー可愛い顔で見ないで、勘違いするから」
「……勘違い、というか」

もっとしたいです、もっとずっとしたいです。
そう続いて、宮城は思う。彼女は、言葉の意味を理解しているのだろうか。自分の思っている「もっとしたい」と彼女の「もっとしたい」は、差異があるのではないだろうか。このままこの空気に身を任せたらどうなるのか、宮城はよくわかっている。彼女に「やめて」と懇願されても、やめてやれる気がしない。それは避けたかった。暴れ狂う欲望はもう、宮城の手には負えなくなっていた。

「もっとしたいのっ、……私だけですか」

そんな中、絞り出された声。「そんなわけないでしょ」と、宮城はナマエをぎゅうっと抱きしめながら言う。顔は見せてやらない。自分で、わかるから。夥しいほどの熱を抱え込んでいると、自分でわかる。格好悪いな、ほんと。歳下の恋人からの一言で、どうしようもないほど照れ腐っている。

「あのさ」
「……はい」
「意味、わかってる?」
「……いみ、ですか」
「もっとしたい、って」
「……わかってます」
「そ」

じゃあ、もっとするからね。やだったらやだって言って。たぶん、ギリギリ、やめてあげられるから。
言葉は柔和だったが、宮城の視線がギラリと鋭くて、ドキッとしてしまう。宮城は唇を、ナマエの首筋に這わせた。擽るような感覚。それが少しずつ下がり、器用な指先が女のワイシャツの第二ボタンと第三ボタンを、無許可で外す。柔そうな膨らみがちらりと目に入り、そろそろやめられなくなるかもなぁとぼんやり、思う。ちゅっと、その膨らみの上部に吸い付く。浮き出る鎖骨から十センチくらい下降したところ。フラミンゴのような、ミルキーなピンク色の下着がちらりと覗いている。

「んっ、んぅ、んっ」

ちくっとした刺激がナマエの頭をチカチカとさせる。宮城は右胸にぼんやりと赤い痕を残し、愛おしそうに指先で撫でて、言う。嫌でしょ?って、決めつけるように。

「……はだ、しっろいね。日焼けとかしねーの?」

返事がない。顔を覗くと呆然とする彼女に、ハッとした宮城。ぷちぷちっと、ボタンを元に戻してやる。
え、あ、やめちゃうんだ。
それを察したナマエは、大変に不機嫌そうで。

「……こんなとこ、日焼けしないです」
「この間出してたじゃん」
「こんなところまで出してないです、あと、わたし、こういうの、やじゃないです」
「ん?」
「やじゃ、ないです……はずかし、っ、だけで、」
「オレしか見てないのに?」
「…………みやぎせんぱいだから、はずかしいんです」
「でも、もっとしたいんならもっと恥ずかしいことしなきゃだよ」
「……それは」
「ちゃんと意味わかってんの?」
「わかっ、てるもん」
「うち、来る?」
「え、」
「うち。たぶん、まだ誰もいないし」

どうする?
困ったように問う宮城に、ナマエはおずおずと答える。行きたいですって、俯きながらもハッキリ答えるから、宮城はますます、困ってしまう。

2023/05/02