シンデレラ・ボーイ | ナノ
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「ごめんなさい、私が体調悪くなっちゃって……ちょうどそこに流川くん来てくれて、休んだらどうかって」

だから、ごめんなさい。勝手にお邪魔して。
あの日、部長だという宮城くんにはそんな言い訳を述べた。ごめんね、話すの初めてなのに、見え透いた嘘吐いて。

「あ、いや、それはぜんぜん……だいじょうぶっすか?」

困惑した様子の彼はこちらを気遣ってくれたが、上辺だけの言葉であることはすぐにわかった。この人、流川とどんな関係だ?それがありありと、表情に浮かんでいる。まぁ、当然のことだ。だいたいそれって、私にもよくわからないし。
それ以上宮城くんは何も聞いてこなかったし、私も何も言わないことにした。寛容な彼に心の中で謝罪と礼を繰り返す。そして、流川くんは言い付けを守り、ちゃんと、何も言わなかった。宮城さんにぺこっと頭を下げるだけ。そして私に言う。すぐ着替えるからここで待ってて、と。更衣室の前、彼が出てくるのを待つ。送られる視線に少しは慣れたのか、それとも麻痺しているだけなのかはわからないが、私はもう、何も思わなくなっていた。

* * *


「なあ、おい」

後で聞いた話だが、この日、年長者の三井くんは帰り際の流川くんを呼び止め、問うたらしい。マジで誰なんだよ、付き合ってんのか?と。心配だったのだろう。女の子に興味を示さない彼が、同年代ではなさそうな女をロッカールームに連れ込んでいたのだから。流川くんはチラッと、廊下で待つ私を見て、その後で言ったようだ。
まだ付き合ってない。でも、いずれ付き合う。三年後か五年後か、よくわかんねーけど。
そう、言ったらしい。

* * *


流川楓の脳内には、同じ言葉がぐるぐる、浮かんでいた。
「だから私は流川くんを好きじゃないことにしなきゃいけない」
一つ前の授業で深く眠ったせいか、珍しく睡魔に襲われていなかった。それでも授業は退屈で……というか、教師が何を唱えているのかさっぱりわからないので、この男にできることなどなく、手持ち無沙汰なのだ。全く関係のない事柄が、異国の言葉で淡々と届けられているような気分。だから、巡る言葉を、とりあえず開いていたノートの隅にざっと、書く。知っている言葉ばかりだ。普段取り扱っている言語だ。すきじゃないことにしないといけない、ってのはつまり、好きって解釈でいいのか?でも彼氏、いるって言ってたし。
あの人と出会ってから、難しいことを考えなくてはいけないことが増えた。面倒だな、と思う。好きだけじゃ、ダメなのか。七つ年齢が離れていることって、そんなにいけないことなのか。法律を破っているわけでも、誰かを傷付けたり悲しませているわけでもないのに、なんで。
教室の窓、静かにそおっと、雪が落ちてくる。湘北高校は、明後日から冬休みだ。

2023/04/06