さんねんごくみのくろおくん | ナノ
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うち、来ますか?
それを言い出したのは私だったし、ちゃんと変な意味も込めていた。ちゃんと、こうなるかもと期待していた。
高校一年の正月。奮発して購入したものの、汚してしまうのが怖くて、タグを付けたまましまってあったルームウェア。可愛い女の子の為に作られたデザイン、パステルカラー。ほわほわのパーカーとショートパンツ。今だ!出番だ!ここしか無い!そう思い、クローゼットの奥から引っ張り出した。ようやく日の目を見たので嬉しそうだ。おまけに、下着はふりっとした可愛いものを身に付けた。
そんな感じで、準備万端。なのに、いざこうなると頭は真っ白。全て、想像し得ることだ。キスも、その間に舌が絡むのも、彼の大きな手が胸を包むのも、全部許容範囲。なのに、思考は破壊され、私はされるがままだった。黒尾先輩が好きって、それだけしか考えられなかった。

***


「はぁい、」
「お邪魔します」

これ、差し入れ。飲み物、お菓子。甘いの好きだっけ?に大好きですと答える。それはよかったですと彼がご丁寧に言う。

「ありがとうございます、上がってください」
「可愛い格好してんね、足寒くないの?」
「さむ、くないです。黒尾先輩寒くないですか、外、雨、大変でしたね」
「平気、お気になさらず。傘ここ置いていい?」

以前デートをした彼の家の近くの河原でゆっくりお話をする予定が、さあっと降る雨のせいで中止。それでもどうしても彼に会いたくて、今日どうしようか、という話の中で意見を述べた。うち誰もいないので来ませんか、と。それに深い意味は……あった。そこまで、子どもじゃない。黒尾先輩となら、そういうことになったって構わないと思ったから言ったのだ。彼はいっしゅん黙って、いやでも、みたいなことをポソっと。私、黒尾先輩と一緒にいたいんです、だめですか?彼からやんわりお断りされる前に、ピシャッと告げる。それより「先手必勝」と「急がば回れ」って矛盾していないか?いや、今そんなことはどうでもよくて。

「天気予報、一昨日くらいから雨だったらしいのに気付かなくてごめんね」
「私も気付かなかったです、すみません」
「それとお邪魔してごめんなさいね、急に」
「そんな、私が来てくださいって言ったので……」
「いや、来ないのよ普通。誘われても」

今日は「先手必勝」でよかったらしい。黒尾先輩は仕方ないなを滲ませながら、私の家で過ごすことを承諾してくれた。彼がやってくるまで小一時間。やることが多すぎた。ざっくりと掃除を済ませ、プリントや化粧品をあるべき場所にしまい、身支度を整え、買ったばかりのボディミストを纏って彼を待った。で、彼は時間通りにやってきて、いま。私の家に黒尾先輩がいるのはとても変な感じで、とても普通に恥ずかしかった。ブラックのニット、同じ色のマウンテンパーカー、デニム。彼以外が身につけているとただの地味なコーディネートなのだろうが、シンプルなそれがスタイルの良い彼にとてもよく似合っている。

「適当に座ってください」
「おじゃましま〜……す」
「…………あの、あんまり見ないでください」
「あ、ごめん。なんかすげえ女の子の部屋って感じで、……つい」
「女の子の部屋って感じですか?」
「うん、なんか。ごめん、キョロキョロしちゃう」
「パパッと片付けたんですけど、細かいところ掃除できてないので、」
「いやそれは全然。なんかそういうことじゃなくて」

落ち着かないのだろうか。ラグの上、ベッドを背もたれにして掛け、静寂を埋める為にテレビを付けてみたが、これが正解なのか分からなかった。テーブル、元々グラスは用意していたので隣に彼が持ってきてくれた飲み物とお菓子を置いてみる。これも正しい行動なのかわからない。並んで座ったことくらい、ある。何度もある。それが、この狭苦しい六畳になった途端、こうなるのか。

「黒尾先輩、いただいていいですか?」 
「あぁうん、是非。適当にやって」
「どっち飲みますか?注ぎます」
「ミルクティーにします。なまえちゃんも好きなの飲みなね」
「はい、ありがとうございます」

とくとく、それを八分目まで注いで彼の前へ。ありがとう、がやってくる。きっと、黒尾先輩も気まずい空気を感じたのだろう。不自然なくらいに、くるくる話題を寄越す。
昨日のあのドラマ見た?来週楽しみだよね。
この間の授業中友だちが寝てるところ里端先生に見つかってさぁ、あいつ超怖いじゃん。
昨日部活の時に山本がなまえちゃんと付き合ってんのかって顔真っ赤にしながら聞いてきたよ。リエーフがまだ知らなかったんですか黒尾さんやっと彼女できたんですよって驚いてたわ。え?てか俺、後輩に馬鹿にされてない?
そんな話を代わる代わる。私はそれを楽しく傾聴した。彼がスマートフォンのディスプレイを私に見せる。

「ここ、最近できたカフェなんだけどいい感じじゃない?今度なまえちゃんと行ってみたいなぁと思って」
「えぇ、可愛い。見せてください」

ずいっと、彼の方に身を寄せ、覗く。電子機器を持つ彼の手を、自分の手のひらでそっと包み、こちらに向ける。きっと私は彼からの「なまえちゃんと行ってみたいなぁ」に舞い上がっていた。その証拠に、断りもなく勝手にスワイプする。洒落た店内。ラテアート。カヌレは種類豊富だ。

「こんなお洒落なところできたんですね、行きたいです。あ、でも黒尾先輩部活忙しいですよね……冬休みとかって、じかん、」
「ちょ、なまえちゃん、近い。近いです」

ぱっと、私から距離を取る。勝手に楽しくなっていた私はぎゅっとブレーキを踏んだ。

「、っ……ご、ごめんなさい」
「……あのねえ」
「はい」
「誘ってると思っちゃうから」
「誘っ…、」
「男なんて馬鹿なんだからさ。嫌でしょ?勘違いされたら」
「……いやじゃ、ないです。私、今みたいに距離取られる方がいや、」
「いや、あのね、俺そんなに理性ないから」
「ダメなんですか」

触れていたいよ。そばにいたいし、恥ずかしいけどキスだってしたい。二人きりでお話しできればじゅうぶんだったのに、もうそれじゃあ足りなくなっている。水曜日、週一回だけ、一時間だけ隣に居れれば充分なんて、もう思えない。

「私と黒尾先輩、付き合ってるんだからいいんじゃないですか」
「……いいって、何が」
「何って……その、……」

離れた熱が、戻ってくる。そおっと、唇が触れる。頬を彼の手が包む。可愛い口付けを何度か繰り返すと、いつの間にか舌が絡んだ。あ、アウターこっち掛けておきますか?って聞くの忘れちゃった。床に置いておくと皺にならないかな。そんなことを考えられたのはこの辺りまで。黒尾先輩は暫く、私を解放しなかった。ぴちゃぴちゃ、いやらしい音。ぼおっとする脳内。名残惜しく離れる唇。解放され、ぷはっと呼吸をしたところで、彼の唇が首筋を這う。左手は太腿を這い、右手がそおっと胸に触れた。ビクッと反応した私に言う。こういうの、いいのって。嫌だって言わないとどんどん進んじゃうよって、言う。

「や、じゃない、っ……嫌じゃない、です」
「……ウソはダメよ」
「嘘じゃないです、やじゃないの、恥ずかしいだけ……」
「本当に?やじゃないの?」
「黒尾先輩は?やだ?したくない?」
「……言わないとわかんない?僕、なまえちゃんのことが大好きな高校三年の男子よ」

こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。
情けなさそうに彼は言う。ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。私も負けじと、彼の背中に腕を回してぎゅっと力を込めた。 

「もう、今日、なまえちゃんに乱されっぱなしよ。家来ませんか?から完全にダメ。おまけにこんなに足出しちゃってさ。俺のことどうしたいの」
「だ、だって……こういうの、好きかなって」
「ハイ正解、仰る通り大好きですけれども。なんかやたら距離近いし」
「黒尾先輩のこと好きだから、……好きだから、くっつきたくて」

狭い部屋、もわもわとした空気がたっぷり。なに?今日は可愛いことしか言わない日なの?彼がそんな風に私を揶揄い、たっぷりキスを落としてくれる。ごめん、触りたいから触るね。Tシャツの中に入ってきた彼の手。背中にまわり、下着の金具を外す。そおっと、そおっと触れる。

2021/05/20