石造りの部屋は、暖かなランプの光を受けても熱を持たない。装飾として走る溝のひとつでさえも、地獄へとつながる亀裂のような闇を湛えているようだ。
 こんな高級そうなソファをあつらえるくらいならこの館ごと改築したほうが良さそうなものだ、とスティーリー・ダンはこっそりと鼻を鳴らした。


密会(Secret meeting)


「じゃあ、そろそろ出発させていただきますかね」
「……まあ少し待て」

 席を立とうとした男を引き留め、雇い主であるDIOがフラッシュを焚いた。容易に見せた今の念写という能力は、正確には彼の能力ではないらしい。
 名状しがたい不気味さを感じさせるこの館から一刻も早く立ち去りたかったダンは、片眉をあげてソファに腰をおろした。
 カメラから出てきた写真を見て、DIOは笑う。

「まだ生きているか。やはりエンヤは失敗したらしいな」
「あの婆さんが!?信じられん、あの復讐心の塊のよーなスタンドを破るとは」
「それ故に冷静でなかった。不安なら他もつけるか?」
「冗談でしょオ……誰が同業者に自分の能力を晒すっていうんです?」

 当然お断りだとばかりに笑う男に、DIOは写真を机において足を組んだ。
 能力を他人に知られるということは、裏社会に生きるスタンド能力者には致命的である――という通説を理由に、今までの刺客はジョースター一行に単身で挑み、そして敗れている。二人でこそ本領を発揮するという、ホル・ホースの戦闘スタイルが特殊なのだ。
 弱みを武器にするこの男ならもしや、と思ったが見当違いだったらしい。スティーリー・ダンの能力こそ、あらゆる能力の中で一番秘匿すべき性質を持っている。

「ではひとつ提案をしよう」

 馬車の後ろに乗っている髪の長い少女を指さし、DIOは唇の端をつり上げる。落ち着いた口調の下に這う、隠しようのない残酷さに、ダンは無意識に背筋を伸ばしていた。

「この娘を使え。奴らはなかなか手強いが、幸運なことにグループ内では血の繋がりがあるものが3人もいる」
「なるほど、末の娘に"入り込ませる"と?」
「方法は任せよう。恐らく承太郎のスタープラチナ相手では厳しいだろうが、ジョセフと昭子には容易だろう」

 屈強な男たちに混じる華奢な少女をターゲットにしない者などいるだろうか?知らされている能力も「瞬間移動」という攻撃力のないものである。

(しかし本当に"容易"かどうかは、まだ分からない)

 生まれて間もない能力は、まだ化ける可能性がある。提案には半ばDIOの実験のような意図が含まれていた。加えてあの盲信を糧に生きていたようなマリアが、DIOにあえてそれを口にしたということは尋常ではない。
 イエローシグナルを鳴らすのは、空条昭子のスタンド能力なのか、性質や性格なのか、あるいは彼女を取り巻く運命なのか?
 それを見極めなければ。

「ああ、それから」

 2m近い影が彼を追い越して背中の壁まで伸びる。ざわりと蠢いた本能的な恐怖に一歩、ダンは足を下げた。
 ブチブチブチ、と肉がちぎれる音に喉がひきつる。この館の主は人間ではないのだ、という都市伝説じみた話が真実であると信じざるを得ない光景だった。

「これを持っていくといい」

 それは服従と殺戮の種。
 微かに震えた手で肉の芽をラバーズに持たせた、ダンのもたらす影響をDIOは予想し、そして明確ではない一抹の期待を抱く。未知数のものに対して彼は慎重であり、そしてとても強く興味を持った。

 闘うのも、逃げるのも、全て委ねよう。
 一人分の命を手のひらに乗せ、吸血鬼は笑った。


▼to be continue....

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