パキスタンで宿泊する予定のホテルの前で目を覚まし、よく眠れたと猫のように伸びをする。それから襲ってきた敵が凶悪でいかに倒すのに苦労しただとか、男達の話を聞き流しながら夕飯を食べる。
これが昭子の中で最高のルートだったのだけれど、理想と現実というのはどうしてこう仲が悪いのか。

「……トラックとの衝突事故で起こされるとは思わなかった」
「だァから事故じゃあねえって言ってんだろッ!どう考えたってアレは追手のスタンド使いだ、お前もまとめて殺されるところだったんだぜ!?」
「で、この女の子は?」
「あ、あたしは……」
「ただの不法入国者だ」
「へえー、小さいのに大変だね」

意気揚々と自己紹介しようとした少女は、承太郎のあんまりな紹介につんのめる。感心するように握手を求められては弁解する声も上げられない。少女はぱくぱくと口を開閉したあと、結局ジョセフの膝の上からその白い手を握った。


運命の車輪(Wheel of Fortune)2


細い山道を抜けると小さな茶屋がある。インドで少しばかり体に馴染んだ甘い香りの店内では、何人かの客が席に着いていた。こんな所で店を出しては儲からないのではと思ったが、意外と繁盛しているのかもしれない。

まだ重い体を壁に預けて、昭子はぼうっと外のランドクルーザーを見つめていた。きっと寝る前はピカピカの新品だったろうに、今や見るも無残な姿。思わず長いため息がこぼれる。

そして何の気なしに店内に視線を戻すと、連れが客を襲撃していた。

「お、おいッ!無茶だ、承太郎!!ジョースターさん貴方まで……やりすぎです!!」
「テメーのようーな面が一番怪しいよな〜ッ!」
「えっ!?そ、そんなッ」
「…………」

さて、車に戻ろうかな。
全力で他人のふりをして逃げようとした昭子は、その時やけに響いた車のエンジン音の方向を向いた。話には聞いていた件の古ぼけた車から、不気味に覗く腕。
ははあ、とやっと仲間の奇行にピンと来たのだが、昭子は方向を変えずそのままランクルへと戻って行った。

言葉無くとも嘲笑われたと憤慨する一行は、ボロボロの車内へ荒っぽく乗り込む。
何食わぬ顔で既に後部座席に座っていた昭子を花京院が物言いたげに見ているのを、彼女はやはり涼しい顔で答えた。

「そんな目で見ないでよ。どさくさに紛れて運転席に座るのはさすがに我慢したんだから」
「いやそうじゃあなくて、君の親族を止めてほしかったんだ僕は……」
「やだ、身内だと思われるじゃない」

いきなりテロリストのように人を襲う集団の一員と認識されるのは嫌だ。中には指名手配犯も居ることだし……おっと、今のナシね。ナシ。
ジョセフや承太郎に聞こえないようこっそりと助手席に届いた声に、花京院は言葉も出ない。これがある意味家族間の睦まやかさというのだろうか、心なしか柔らかい澄明な瞳は彼にとっては腑に落ちないものだった。

それにしても、と花京院が広げた地図に目を落とすと、昭子もつられて真新しい紙面を覗きこむ。

「おかしいな……パキスタンへの道はトンネルがあって鉄道と並行してるはずなんだが」
「鉄道?上りの一本道しかないけど……」
「どーでもいいぜ、すぐに捕まえるからよ。あの野郎、次のカーブで絶対にとらえてやるッ!!」

整えられていない山道は決して平坦ではないのに、スピードを一向に落とさないシルエット。何がなんでも追いつこうと更にアクセルを踏み込んで勢いよく曲がった先は―――なんと絶壁!

申し訳程度のつり橋がかかった崖の際どい場所で何とか車を止まらせたポルナレフは、冷や汗ですべるハンドルを強く握りなおす。

「ば……バカな、行き止まりだ!奴はどこだ!?カーブを曲がった途端消えやがった?車じゃあつり橋は渡れないはずだッ!」
「まさか、墜落していったんじゃねーだろーな…………ッ!?」

―――ドンッ!!

車体が大きく揺れる。
一度落ちれば戻れぬ地獄の谷へ突き落とさんとばかりの、鬼気迫る衝突。あり得ないことに、あの古ぼけた車とは思えない力で後ろから何度も追突してきていた。
道は確かに一本道であったはずである……助手席の背もたれに手をついて、昭子はふと横岩にまるで"重力を無視して岩の上を走ったような"タイヤの跡を見つけた。
嫌な想像が眉間に濃い影をつくる。

「……壁走りなんてルパンじゃあないんだ、あんな小さな車体でこの馬力はあり得ない……どう考えても"普通じゃあない"!」
「……そうか!あの車自体がスタンド……ッ!ベトナム沖で出会った操る船それ自体のスタンドと同類かッ!!」
「な、なら承太郎!同じようにスタープラチナでそのクソったれをブッ壊してくれッ!!」
「無理だ、殴れば反動で俺達のクルーザーも吹っ飛ぶぜ……トラックに衝突した時のように!」

四輪駆動の車輪があっけなく空回りし、ガクンと前輪が崖際を滑る。スタンドと分かればただのランドクルーザーでは太刀打ちできないのは明白、いよいよピンチだ。
運転手の判断は早かった。もうだめだ、車を捨てて脱出しろと全員に指示したのはいいが、彼が席を立ったということは。

「あッ!」
「ポルナレフ、ドライバーが皆より先に運転席を離れるか普通は……!誰がこのランクルを踏ん張るんだ!?」
「えっ……」

しまった、と思った時にはもう遅い。
一瞬体が軽くなり、凄まじい浮遊感。引きつった大きな謝罪の声をBGMに、一行の車は終わりの見えない谷底へと吸い込まれていった。




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