▼02.触れそうで触れられない指先
「ぁ……ッ」
首筋をぬらぬらと這い回っていた熱い舌が、喉仏の上を通り過ぎた。
薄い胸元をまさぐるしなやかな指が、勃起して虐められたいと主張している突起を押し潰す。俺は毎回律儀に「あンっ」と嬌声を発し、腰をびくつかせてしまう。
ただの事務的な愛撫に過ぎないと判っていながら、引っ切り無しにか細い鳴き声を上げ、背中をのけ反らせる俺は、景にしてみればよく出来たダッチワイフに違いない。
下着一枚だけを纏った俺の姿は、景の目にどんなに淫乱に映るだろう?
ペニスの先端が当たる箇所をいやらしい透明な液でぐっしょりと濡らし、いい様に組み敷かれた挙げ句もっともっとと腰を揺らす俺は……ちゃんと、景の性欲処理になれているのか?
「日向……」
「ッふ……」
どぷっ
くりっ……くちゅ、くちゅ、
「あぁッ……ひ、あっ、あっ……!」
耳元に吹き込まれた甘い声だけで、先走りを吐き出す。
時々図った様に乳首に爪を立てられると、身を捩りたくなる程の快感が全身を駆け巡る。
枕に染み込んだ自分の唾液が頬に触れ、冷えた液体の感覚にさえ反応し、先走りが漏れたのが判った。
「あき……っら、ハァッ……」
もう、我慢出来ない。
景のシャツの袖を掴み、もっと虐めてくれる様に強請る。
浮かせた腰はゆらゆらといやらしく前後に揺れ動き、恋人の手に暴かれるのを今か今かと待ち望んでいた。
「あきィっ……ら!」
「……」
無言で景の右手が俺の下着に掛かった。すっかり期待に焦がれた淫蕩な身体は、だらだらと先走りを溢れさせる。
薄暗い夜間用の蛍光灯に照らされ、俺自身と下着との間を銀色の淫らな糸が繋ぐ。
景はじっと、俺のびしゃびしゃに濡れそぼったペニスを視姦していた。
嘲りも煽りもせず、ただ、じっと。
「やッぁあ……!」
熱に浮かされた状態でも流石にその光景は恥ずかしくて、咄嗟に顔を背けた。
そのくせ景の視線に一層身体が高ぶり、とろとろと淫液が自身を伝う。
再び腰が宙へ浮き、景の手を求めてくねらせた。下半身を動かす度尻にまで流れた先走りがシーツと擦れ、にちゃにちゃと音を立てる。
熱い涎は絶える事なく、性器を濡らす。
「ンふぁっ……あきらぁ……っ」
自分で慰めるより、愛しい恋人に愛撫されるほうが何倍も感じるし、何より嬉しい。
景はやがて目を細め、ゆっくりと俺の下肢へ左手を伸ばした。しかし焦れた俺が自ら擦り付けようとすると、景はその直前で手を引っ込める。
にやりと口の端を持ち上げて笑う姿は、やはり何度見ても格好良いんだ。
「欲しい?」
がくがくと首を縦に振った。
それだけで意地悪な恋人がご褒美をくれる筈もなく、俺のペニスに触れる僅か手前で寸止めしておきながら、焦れったさに腰を震わせる俺を愉快そうに見下ろす。
「ちゃんとお強請りの仕方は教えただろ?」
「ぁあ……ッ」
景の手で躾られた俺は、いつ解消されてもおかしくない関係なのを忘れ、上の口からも性器からも唾液を漏らした。
びくびくと快楽に痙攣する四肢を手繰り、四つん這いの体勢になる。尻を高く掲げて何もかもを景の目に晒し、自分の右手の人差し指を上の口に咥えた。
やがてたっぷりと即席の潤滑油を纏わせた指でアナルをつつく。自分の指に感じ、再び大量の先走りが糸を引きながらシーツに落ちた。
「ぁっ……あーっ、あっ、あっ……あき、ッらぁ……」
慎重に潜り込ませた人差し指を、淫乱な俺の後孔はさして痛みもなく飲み込んだ。
生理的な涙で霞む景を振り返る。視線が合うと、穏やかに笑った彼は頷いた。
アナニーの許可が出たので、そっと人差し指を前後させていく。
「ふぁあッ……ぁンっ、あひ、ひ、ひァ……!」
ぐち、ぐちゅ、
ぬちゅぬちゅっ、くちゃっ
細い指一本でナカをまさぐっているだけなのに、景に視姦されていると思うと感じ過ぎてしまう。左手でシーツを千切れそうなくらいに掴み、勝手に腰も悶える。
そう間を置かずに中指も突っ込んだ。前立腺を二本の指で挟みくりくりと捏ねると、鳴き声が止まらなくなる。
「いつも一人きりで楽しまないんだ、日向は?」
「ィひぃッ……あっ、あーッ! あっあっあっぁあン!」
責める様な咎める様な声にさえ、びくびくと全身が震える。
目の前が断続的に白く染まるも、射精の許可が下りなければまだそれは叶わない。
「日向は自分でケツに指突っ込んであんあん鳴いて、それを見られてまた感じちゃうんでしょ?」
「ふぁアっ……あーッあーッ! あんっあヒぃっひっ」
「知ってる? そういうの、淫乱って言うんだよ」
「あァっ……あ――ッ!!」
この上なくギンギンに勃起したペニスを、景の左手が包む。
冷えた指輪が括れに押し付けられ、小刻みに扱くその手は温かい。
前からも後ろからも快感が襲い掛かって、俺はナカへ挿れた指を目茶苦茶に掻き回す。
「もっ……あーっも、もぉッだめぇ……ッ!」
「イきたいの、日向?」
「あっ……あーっイ、きたぁ……ッ!」
ふうん、と楽しそうな景の呟きが唯一聞き取れた最後の音だ。
「ひィっ……ッぁあああッあーッ!!」
びゅっ!
びゅっびゅくびゅくっ
俺は鈴口を軽くつつかれただけで思い切り達し、その後暫くシーツに精液を撒き散らし続けた。