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「ぁああああッー…!」
太股がびんっと突っ張った。
俺は右手でシーツを掴みながら、白濁を思い切り撒き散らしていた。先端をだらだらと伝い落ちていく感覚が気持ち良過ぎて、逆に恐い。
痙攣がある程度収まると、再び性器を包んだ左手をゆっくり上下させる。横向きに映る視界は確かに俺の部屋なのに、いつの間にか俺の横たわるこのベッドは傑の家のやつになってた。
妄想の中では、弄ってくれる手も傑ので、耳元で掠れた声を吹き込むのだって傑だ。
『要、気持ち良い?』
「んっ…はあっ、あっ、あっ、…もちい、よぉッ…!」
こくこくと何度も頷き、俺は明け方近くまで自慰に耽っていた。
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「し、時雨さん?」
恐る恐るといった呼び声に慌てて顔を上げる。
「はっ、はい!」
「どうかなさいましたか? 随分お疲れみたいですけど……」
「あっ、いえ、何でもないです! すみません、ご心配をお掛けして」
相澤時雨の顔で笑い返すと、親切なスタッフはそれだけで納得してくれた。
彼が立ち去ったのを確認し、安堵の息を吐き出す。
「馬鹿じゃねえの、俺……」
仕事に差し障りが無い様に、が傑が交際をオーケーしてくれた条件のひとつなのに。
携帯電話を尻ポケットから取り出す。着信もメールも無い。
再び溜め息が口を突いて出ていった。
「そんで、傑も、馬鹿……」
準主役に等しい大事なキャストを貰ったと聞いて、俺も目茶苦茶嬉しかった。連絡をくれた時は遠慮する傑を引っ張り回して、高級レストランで美味いもん食べて、傑の家へなだれ込んでいっぱい愛して貰ったし。
けど、当たり前な事を失念していた。
「ちょっとくらい、釣った魚にも餌をくれよ……」
待合室の隅っこなのを良い事に、そうぼやく。
例のドラマの撮影開始が二ヶ月前。それ以来突然忙しくなった仕事に忙殺されて、会えたのは二回きりだ。
その二回のデートにしたって、しつこく誘う俺に仕方なく付き合ってやったと言わんばかりに、凄く疲れた顔をしていた。何か話し掛けても大抵上の空で、溜め息も十倍くらい増えていて。欠伸なんか何回してたのか数えるのも馬鹿馬鹿しい程、始終眠そうだった。
俺に何か、出来る事はないのか。
家事の一切を取り仕切るとか、その程度なら俺にも可能だ。ただ問題は、俺自身ドラマの主役を一本と、バラエティー番組のレギュラーが二本、加えて今度リリースする新曲の準備で、眼が回る忙しさにあるという事だ。