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 坂下晃、23歳。
 社会人になって二年目になり、漸くまともに仕事をこなせる様になった。上司の覚えめでたいとまでは口が裂けても言えない平社員だが、それなりに信頼は貰っていると思う。
 同僚と酒を呑みに行くのは楽しいし、女性社員はみんな綺麗だったり可愛かったりするし、残業はやっぱり辛くて泣きたくなる。そんな毎日。
 平凡、としか言い表せない程度のただの人間であるつもりだ。
 そして俺は、

「俺の弟をくれ、だって?……ふうん、ならその前に俺を陥落してからね」

 我ながら何を血迷ったのか、男友達の弟に恋をした。
 その友達がバイなのは知っていた。ついでに、毎週末にそういう事が好きな奴が集うハッテンバの公園に足を向けて、突っ込んだり突っ込まれたりして愉しんでるのも。
 そりゃまあ、男の俺が友達の弟に片思いなんかしてしまった時点で、奴をあれこれ言えないとは思う。けれど、

「お前、そんなに節操無かったのか……」
「はは、それ凄い今更じゃない?」

 ソファでビールをぐびぐびやりながら笑う奴の友達を続けていく自信が無くなる。
 男も女もそういう眼で見られる奴の事だから、気持ち悪がられはしないだろうとは理解していた。しかし、自分の友人が自分の弟を、というのは躊躇いを感じてもおかしくない。
 だから俺なりに、週末に奴と呑もうと切り出した時点で、覚悟していたのに。

「ほら晃ー、俺の事押し倒して? んで、お前の立派なモノ頂戴?」
「ばッ……」
「あはは、かーわいい。このくらいで真っ赤になっちゃって」

 けどまさか、弟へのアタックを認める交換条件として、そんなのを提示してこようとは。
 項垂れつつ、考える。

 こいつのお遊びに付き合わない限り、俺は奴の弟くんと――直くんと会えない。
 知り合ったきっかけだって、前日俺の部屋に忘れ物をしたのを日曜に届けに行ってやって、応対してくれたのが直くんだっただけだ。
 可愛い顔だな、と最初は思っただけだった。
 でも、「気を付けて帰って下さいね」って、兄が不在な事に申し訳なさそうにはにかむ彼の笑顔にノックダウンされた。
 その場で前屈みになりそうなのを理性で阻止し、家に帰るや出すものが無くなるまで慰めた。

『ぁふぅ…ッん、あっ、晃さ…ァんっ』

 勿論、頭の中では直くんが可愛らしい声でいっぱい鳴いてくれていた。



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