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「悠太くん、今日は暇?」
中学校からの帰り道、家までもう数歩というところで、聞き慣れた声に僕はそう呼び止められたんだ。
通学鞄でもあるリュックを背負い直して振り返る。
「お兄ちゃん!」
「三日振り、かな?」
藤田真紘お兄ちゃんは、そう言ってにこっと笑った。
初夏の暑さの中を二十分間ずっと歩き詰めだったのなんか忘れて、僕は自宅に背を向けそっちへ駆け出す。
「うんっ! ね、今日は何して遊んでくれるの?」
「んー、そうだなー」
お兄ちゃんに抱き着いて上目遣いに質問すると、お兄ちゃんは少し空に眼を彷徨わせて、その割に迷いのない笑顔で言った。
「大人の遊び――なんて、興味ある?」
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「お、お兄ちゃんっ?」
「んー? どうした?」
「あの、えっと、」
大好きなお兄ちゃんの言葉はなんだって肯定したかったけど、こればかりはただ黙って頷くわけにいかない。
僕はお兄ちゃんの機嫌を損ねたりしない様に、曖昧に笑いながら口を開く。
「僕、なんで裸にならなきゃ……?」
お兄ちゃんの両親は仕事で留守にしていた。だから僕はいつもの様に他の誰にも挨拶せずにお兄ちゃんの部屋に通されて、持って来てくれたオレンジジュースを飲みながら、漫画を読んだりゲームをしたりさせて貰えるんだと思っていたのに。
お兄ちゃんが「裸になって」って言うから、その笑顔に逆らえずについつい制服を脱いでしまった。
恥ずかしくて下着だけは身に纏っていたけど、ほぼ全裸には違いない。
沸き上がる羞恥心でちょっと涙目になった眼で、にこにこ笑ってるお兄ちゃんを見上げる。片手が伸びてきて、僕の頭をよしよししてくれた。
「大丈夫、恐くないよ。言ったろ? 今から『大人の遊び』をするって」
「う、うん……聞いたけど。でも、具体的に何をするの?」
お兄ちゃんはその質問には答えず、僕の手を引き自分のベッドに僕を寝かせた。
益々意味が判らずに、半分泣きながらお兄ちゃんに縋る。
「お、っにいちゃん……?」
「――なあ、学校で習わなかったか?」
「え……?」
「こーゆー事」
お兄ちゃんは酷く真剣な顔になって、パンツの上から僕のアレを握った。
びっくりして身体を起こそうとするけど、やんわりともう片方の手で腰を押さえ付けられてるからそれも叶わない。
「おにっ、ちゃん!?」
「想像通り、悠太くんのオチンチンはちっさいね」
お兄ちゃんがいやらしい事を言う。僕の頬が赤くなるのが判った。