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「智季さん。今日は、十一月十一日です」
「……」
「そして此処に、俺が一週間前に購入しておいたトッポが五箱あります」
「……」
「という訳で、ポッキーゲーム改めトッポゲームの開催を此処に宣言します!」

 相槌は、とても深い俺の溜め息。
 最早突っ込みを入れる気力すらない。
 というか、先日うちの会社の壁掛けカレンダーを剥がしながらの独り身同士の同僚による、「俺、十一日までに彼女作るんだ……」「俺はクリスマスまでに頑張る」という嘆きを耳にした時から、薄々この展開も予感していた。
 望月が余程この手のイベントに消極的な人間でない限り、この上なく『恋人の日』っぽいイベントに、俺を巻き込まない筈はないと。
 だから、我が家の玄関前に陣取って煙草をすぱすぱやっていた姿を見た時も驚かなかったし、奴がコンビニ袋を手に提げていたのも合点が行った。
 それに、まあ……ノリノリで一箱目を開封している望月ほどではないにしろ、俺もこういう馬鹿騒ぎは、嫌いじゃない。
 五箱分きっちりこなすかはさておくとして、だが。

「けど、なんでトッポなんだ?」

 詮無い俺の疑問に対する、望月の回答は明朗だった。

「え、だってそうしたら、甘党の智季さんがチョコたっぷり楽しめるかなーと思って」

 ……本当に、こいつは俺に甘い。
 そして、初々しい女の子よろしく、今のにっこり笑顔付きの台詞にちょっとときめいてしまった俺も、大概にしておこうか。
 互いに帰社したばかりの格好そのままに、ソファーに隣り合って腰掛けているのは、多分世の常識から言うと珍しい構図だろう。なんせ俺もこいつも男だし。
 けど、やたら楽しげに焦げ茶色の袋の中から一本取り出している望月が幸せそうなら、それで良いと思う。

「はい、あーん」

 摘んだそれを差し出され、俺は無駄に足掻きもせず、おずおずと少しばかり口を開いた。
 すかさずその隙間にトッポが侵入してくる。唇を窄めてそれを支えたと同時、望月が反対側を咥えた。
 ――顔が近い。
 勿論それは、このゲームの趣向上当然なんだが、畏まってこんなプレイに興じていると妙な気恥ずかしさを誘われる。
 アナタから食べていいよ、と目を眇めて促す望月に、早くも滲み出ている欲情の気配を感じるものの、羞恥心は微塵もない様子で。
 仮にも同じ男として釈然としないものを覚えながら、俺はかしり、と歯を立てた。それに合わせ、望月もその反対を齧る。
 両端からそれぞれ三口ずつ食べ進めたところで、互いの唇が重なった。
 その瞬間、つい反射的に目を瞑ってしまう。
 しかし、初めての戯れ合いに少々緊張していた俺の心をも読んだかのように、望月は力が入っていた俺の両肩に手を置いた。
 緩く手繰り寄せられるようにして身を委ね、触れるだけのキスを交わす。
 がちがちに強張る身体をどうにかしないとと思うあまり、余計唇を引き締めてしまう。
 結局、一本目のトッポは相手の口腔内で行き来するまでもなく、愚直に体内に消化された。

「わ、悪い……」

 これじゃ、トッポゲームの意味がない。頭では反省しつつも、どうしていいか判らない。
 だが、望月はやはり、根が紳士だった。


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