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「智季さん、少しはこっち向いて欲しいなーなんて」
「……」
「智季さーん? 無視は酷いんじゃないかなー?」
「……」
「……、……さーて、この隙にちょっとベッドの下でも覗いちゃおっかなー」
「ッな、何やってんだあんたは!」
「あ、反応してくれたーやったねー」
「だあああ! やっぱりこいつを恋人になんて早まった!」

 叫ぶと、智季さんは頭を抱えてソファーに蹲ってしまった。
 置いてけぼりを食らった俺は、仕方なく智季さんが自発的に復活してくれるのを待つ事にする。
 まあ、智季さんは元々完全なるノンケさんだったんだから、これまで築いてきた常識とのギャップに躓いてしまうのはやむを得ないかな。俺だってそれを無理に押し通そうとは思わない。
 こういうのは、相手のペースに合わせてゆっくりと。急いだって智季さんが疲れてしまうだけだ。
 ……とまぁ、分かったような建前を並べてはみるものの、悪戯心が急成長しているのも事実。なんたって我慢生活半年だし。俺もよく耐えたもんだ。
 畳の上をそっと擦り寄りつつ、がら空きの背後を取ってみる。
 恐る恐る項に指を這わすと、「ぎょわぁああ!」と全く可愛くない悲鳴が上がった。

「あーあーもう帰れ! 帰れ望月!」
「それがアナタの電話に慌てて家飛び出して来た人間に言う台詞?」
「……っ、お、恩着せがましいんだよ!」
「うん、大丈夫、知ってる」
「〜〜〜……ッ!」

 智季さんは俺が触れた首筋に手を遣りながら、再びソファーに逆戻り。
 からかい甲斐があって大変楽しい。本人に言ったらそれこそ追い出されかねないけどね。
 こっそり肩を震わせながら、俺は飽きもせずもう一度スキンシップに挑戦。今度は、後ろから抱き締める事にする。
 智季さんの身体の前へと俺の腕が絡んだ頃、うつ伏せていた上半身を慌てて起こしたけれど、その時にはもう、逃げられないようがっちりホールド済み。
 厄介な男に目付けられたのが運の尽きと思って、ここは諦めていただく他ない。

「望月……っ」
「だぁめ。逃がさないよ」

 腕の中に閉じ込めて、わざと作った低い声で以て耳元で囁く。
 ちょっとベタかな、とも思ったけど、俺の本気を悟ったのか、智季さんは正面で組んだ俺の両手に手を重ねただけの抵抗で収まってくれた。




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