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まあ、多分、あれだ。
約半年もの間、俺以外の人間と接している望月というものを見た事が――アレの最中、物陰から視姦していた同業者に対する会話くらいか――無いから、その辺のギャップを初めて突きつけられて、その所為だろう。……言い訳が何とも詭弁くさいのは自覚済みだ。
腕時計で確認した現在時刻から、そろそろ仕事に復帰しなきゃならない限界の時間を算出しつつ、もう少しプライベートの悩みに懊悩する事にする。
俺ってこんなに嫉妬深い男だったのかーとか、ガキもびっくりの独占欲があったのかーとか、自分でも驚愕だ。
いつも恋愛は俺発信ばかりで、告白なんざされた試しがないってのも一因だろうが。望月じゃないが、俺もコレは初体験だからな。
いい歳して恋愛どうこうに振り回される羽目になるとは。まあ、俺自ら振り回されに行っているだけなのかも知れないけど。
とびっきり大きな溜め息が出た。
……ぼちぼち素直になるべき頃合いなのかも知れない。
あいつに恋心を云々の方面では一切全く、ツンデレを抜きにしてその兆しはないが、望月の存在が頭の片隅にこびり付いているのは否定出来ない。
それこそ、一緒に歩いていた男は一体何処のどなただったんだ、と頭を悩ませるくらいには。俺が気にする権利なんてもん、まだ無いにも拘わらず。
殊更慎重な手付きで以て意図的に時間を掛け、名刺入れから渋々因縁の一枚を取り出す。
今になって初めて認識したが、名刺に書かれたあいつの職場は、俺の会社とそんなに離れていなかった。徒歩十分の圏内に居ながら、今日になって漸くオン時の姿を拝むとは、果たして喜ぶべきポイントなんだろうか。
もう一度腕時計に目を遣る。
午前中の営業の成果を報告する為に一旦社に戻る刻限は、いつも通りの十三時。そして現在、十一時過ぎ。
……昼食を犠牲にすれば、充分あいつを捕まえられる。
この際、自分自身の感情に白黒付けてしまいたい。でないと、少なくともこの後の外回りも、どうせ空振りに終わるだろうから。
俺は頭の中で上手い言い訳をこねくり回しつつ、スマホの地図機能を起動させた。