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「……ふぅ」
漸く屋敷内の見回りを終え、静寂に満ちた廊下で私は人知れず溜め息を零した。その些細な物音はあっという間に闇に消える。
オレンジ色の懐中電灯の明かりを正面に向けて赤絨毯を歩く。一応は家令として足音を消すくらいの技能は持ち合わせているが、深夜のそれは存外響くものだ。しかしその音も丸ごと分厚い絨毯に吸われる。
歩を止める事なく目的の部屋へ向かいながら腕時計を確認する。23時50分。約束まで後十分余りと見るや、無意識に歩調が速まった。
やがて到着した艶やかにニスの光る扉の前で踵を揃えて立つ。長針は59分を指していた。
私は一度軽く息を吸って吐いて、ノッカーを叩いた。
「私です、大野です」
「入れ」
扉越しのややくぐもった声に許可を貰い、控えめに扉を開く。
「相変わらず律儀な事だ」
「……と、仰いますと?」
後ろ手に施錠まで行った私に、主人は突拍子もなくそう言った。バスローブ姿でベッドに寛ぐ彼は、問いを受けて小さく笑いながら壁掛け時計を指差した。
「時間丁度だ」
0時0分。
私も釣られる様に微笑み、一日中首元を締め付けてきて煩わしい事この上ないネクタイを解いた。
「ええ。貴方もさぞ待ち侘びたでしょう?」
「ぁあんッ! ぁくぅ…ぅうっ、あんっ、んんーッ!」
「腰が砕けかけていますよ、真さん」
「あんっあんっあん! ぁはぁ…ッぅ、おおっ、の…!」
美味しそうにアナルで極太バイブを頬張る真さんが私の名前を呼ぶと同時、自分で口にしたその単語にさえ感じたのか目に見えて後孔がぎゅっと締まった。
赤い紐で一纏めに頭上高く両腕を括られ、そこから続く余った部分でペニスの根元を縛られ、真さんは狂った様に腰を振る。
手首は一つに結んであるだけで感じる度に反射的に腕が跳ね、手を引っ張ると連動して自らペニスの拘束をよりきついものにしている。最初こそ真さんはその悪循環に抵抗しようとなるべく身体を動かさずにしていたが、ナカがとろとろに蕩けているのが傍目にも判る今では自分で自分を追い詰めているという事自体、マゾな彼には堪らない様だ。
四つん這いから上半身をベッドに預けたこの体勢は、後ろに居る私から恥ずかしいところが丸見えだ。
くちゅくちゅとバイブをしゃぶる後孔も、先走りで濡れそぼつ自身も全て。
「ひィあ…っぁあう! あ! ッぁあああン!!」
不意に、引き付けでも起こしたみたいに、背中と太股を痙攣させたかと思うとがくんと彼の身体がベッドに沈む。
精液を出せないまま空イキするのも、これで六回目だ。
数ヶ月前までは指一本蕾に入れられるのも痛い痛いと泣いていたのに、もうこんな淫乱な身体になってしまって。……そう仕組んだのは、他でもない私だが。
束の間射精の余韻に放心していた真さんだが、深く咥え込んだバイブがそれを許すわけもなく、次の瞬間にはイケない苦しさに泣き叫ぶのだ。