(7/12)



「あ」
「ショ」

学校から自宅までの途中だった。

「こんな時間に珍しいっショ」
「学校でちょっと残ってたー」

帰宅部の若菜とこの時間に出くわすのは珍しいなと思えばそう言うことらしい。
それにしたって妙に違和感を感じる、と思い、そう言えば若菜とこうして顔を合わせるのは数か月ぶりであることに気付いた。
去年までは毎日のように顔を合わせていたのに、そりゃ違和感も感じると言うものだ。
恥かしさ、とまでは言わないが、話題を少し探してしまう。

「帰宅部が残って何してたショ」
「進路相談」
「進路?」

あぁもうそんな時期なのか、と若菜の首のマフラーを見て思った。

「若菜は心配ないショ」
「あー・・・そうではなく。もっと上ねらえってお話」
「上・・・て、はぁ?」
「総北、悪い学校じゃないけど、やりたいことがあって選んだんじゃないならもっと偏差値の高い学校行って、学力を伸ばした方がいいって」

私の進路なんだから勝手にさせてよねぇ、なんてぶちぶち言いながら横を並んである幼馴染に、裕介が少しだけ内心焦燥を感じながら、でもなんでもないかのように装った。

「・・・で、どうするっショ?」
「やりたいことがあるわけじゃないのにお金のかかる学校は行かない。総北近いし、総北に行く」
「そ・・・そうか」
「・・・って言ったら時間かけて説得されて、今に至る」
「オツカレ」
「まったくだよ・・・あ、総北って天文学部あるってホント?」
「え?はぁ、あるっショ」
「そっかぁ・・・」

急ハンドルきられて素直に答えてしまったが、その質問の真意はもしかして―――

「天文学部に、まさか入るつもりなのか・・・?」
「うん。なんか憧れると言いますか」
「はぁ?何言ってるっショ。お前は入学と同時に自転車競技部に入部決定だっつーの」
「なんでだ」
「今いる先輩マネがいなくなって大変なんだよ。ただでさえうちは選手兼メカニック状態なのに、マネジメント業まで増やしてられないっショ」
「それを当たり前のように私にさせる気か、裕介は」
「当然っショ。自転車が単純に好きでってんならいいけど、そうじゃないヤツに仕事教えてる時間がもったいないっショ」
「いや、私も仕事わかんないけど」
「入学決まったら練習に参加しに来ればいいっショ。今はオフシーズンだから、本格練習までに」
「いやいや、待って待って。裕介なんか妙に押しが強いね?どしたの?」
「・・・別に、いやならいいっショ」

自分の活躍を見せてやりたい、なんてことは口が裂けても言えそうにないのでとりあえずそうごまかしておく。

そんな裕介の様子に何かを察したらしい若菜は(これだから付き合いの長い幼馴染はいやだ!)少しだけ照れくさそうに、

「やだもー裕介ったら!お母さん嫌じゃないよ!お母さん裕介のためならいっくらでも入部しますからね!」

おばちゃん節をさく裂させた。

「・・・・・・」
「なに、その顔」
「かっわいくねーっショ、お前、ホントに・・・」
「そのブスに褒めてほしいのはどこのどいつだ」
「ブスとは言ってねぇっショ。まぁ、別段美人でもねぇけど」
「うるさいよ。自分だってキモい怖いこっぱずかしいの3Kのくせに」
「最後!前二つもだけど最後!」
「悲しくなる苦しくなる心が痛くなるの3Kでも可」
「お前適当にいってるっショ!」

********************

そんなこんなで、推薦と言う名の合格を早々に勝ち取った若菜は、年明けすぐに総北高校自転車競技部に引きずり込まれた。
とりあえず現1年の部員たちがマネジメント業を教えてくれるらしいのだが、まぁ驚くほどに部員数が少ない。
強豪校と言うのだから、きっと大勢の部員がいて、2軍3軍があるのだとばかり思っていたら、割とギリギリだった。
そう言えば裕介も選手とメカニックを兼任している状態だとか言っていたっけ・・・と思い出す。

「4月から入学予定の島谷若菜です。よろしくお願いします」
「金城だ。金城真護。こっちが・・・」
「田所迅だ。早ぇうちから悪いが、よろしく頼むな」
「こちらこそ、正式に入ってないうちからお手数かけます」
「巻島の幼馴染っつーからどんなのが来るかと思ったけど、マトモじゃねぇか!」

豪快に笑いながら裕介の肩を組む田所に対して、裕介はなんだか非常に微妙な顔をしていた。
自分が呼んだくせに、今になって後悔し始めたのだと言うのだろうか。

「いや、こう見えてたまに電波飛ばしてるっショ。・・・つーか、若菜」
「ん?」
「お前・・・名字、島谷っつーんだな。初めて知った」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」

本気か?本気で言っているのかこの男は?
思わずまじまじとその顔を見つめてしまう。

―――本気らしい。

「今更!?今更聞く!?何年の付き合いですっけ!?」
「15年・・・ショ」
「オメェ、そりゃねぇだろ」
「そうですね!なのに初めて!?お母さんは悲しい!」
「お母さん落ち着いて」
「金城も落ち着け。何つられてお母さんって呼んでんだ」

さめざめと涙する(フリをする)若菜をなだめて、どうにかこうにか軌道修正する。

「ゴホン―――で、仕事なんだが、別段変わったことはない。部室の管理、清掃とドリンクの準備や、主務業と言ったところか?」
「あぁ・・・そう言うことなら得意だと思います」

なんせ、前世じゃ独り暮らしのOLだったのだから。

「今の時期はまだオフシーズンだから、やってもらうのは主に雑務になるかと思う」
「分りました。とりあえず、じゃぁ今日は・・・」

ざっと周りを見回してみて、決めた。

「掃除だな」
「掃除ですよね」

お世辞にもきれいとは言い難いのだ。
まぁ仕方ないことだろう。ハードな練習後に、くたくたの体引きずって掃除など、若菜が想像するだけでもうんざりだ。

「一年で掃除するんだが追いつかなくてな」

苦笑交じりにそう言う金城を見て、ぴんとくる。
最初から少し気になってはいたのだ。
若菜が来ることを知ってはいたようだが、あいさつくらいで、あとは1年にまかせっきりの2年と言うのが。

「任せてください!その辺の雑務はもうほっといてもらって、練習に集中で来るようにするのが私の責務ですから」
「頼りにしてるぜ、島谷」
「あ、あとできれば下の名前で呼んでください。・・・どっかのあんぽんたんが島谷じゃ分からない可能性が極めて高いので」
「そうしよう」

その後、仲良くなったこの先輩二人を下の名前で呼ぶようになるのに時間はかからなかった。


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