(5/5)



散々な目にあった彼女は、しばらくして落ち着いた後、いつものようにその場で別れ、もちろん行先を告げることもなくじゃぁねと手を振っていった。
さすがに笑ってしまったのは悪かったと反省した新開は、次会うときはお詫びをしようと思っていた。

それが一昨日の話。

会うのは一日空くことはあったが、二日も空くのは今回が初めてだ。

(さすがに怒らせちまったかな・・・)

お詫びのつもりで用意していた、彼女が好きだと言っていたチョコレート菓子を見つめて改めて少し反省。
さてどうしたものかと思いつつ、とりあえずその場で彼女に詫びる旨のメールを送るも、10分たっても返事はなし。これはいつものことなので諦めている。

電話やメールを好まない(と言うより、操作が分からないだけだと新開は予想している)らしく、本当に事務的なことしかメールは帰ってこないし、電話も以下略。
それは最初から言っていたことだし、新開も特に気にはしていない。
ただ、こうなってしまうと、彼女が会いに来てくれない限りどうすることもできないと言うのが不便なものだと痛感する。
携帯がないころの人はどうしていたのだろうかと真剣に考えてしまう新開だった。

「・・・ん?そういや、○○高校だったな・・・」

行ってみるかとも思ったが、そう言えば自分から会いに行っては駄目なのだったとすぐに思い直す。
ルール違反してしまえば、それこそ彼女を怒らせて二度と会ってもらえない可能性が高い。
他に方法を考えたが見つかるわけもなく、どうやら自分に残された道は「待つ」のただ一つだけらしいと悟った。

仕方ないので、いつも落ち合うこのコンビニで、しばらく待ってみてこなければ夜にでも電話してみよう、そう思っていた。



********************



どれくらいか時間が経った頃「新開くんだよね?」と声を変えられた。
顔を上げれば、以前一度だけだが遊んだことのある女の子が立っていた。

「あぁ、ひさしぶりだな」

名前はなんだったか、と記憶を探っていると、ふと気づいた。
彼女と同じ制服だ。

「なぁ、おめさん学校に・・・えっと、探してる子がいるんだけど」
「名前は?」
「それが分らないんだけど・・・多分同学年」

これはルール違反にはならない・・・はずだ。
できるだけ正確に特徴を伝える。

「うーん・・・私の知ってる中には当てはまりそうな子いないなぁ」
「そ、っか・・・そうだよな。名前分らないと難しいに決まってるか・・・悪い、変なこと聞いて」
「ううん。それよりさぁ、ヒマならまた遊ばない?」
「悪いけど今日人と会う約束があるんだ。またな」
「そっかー。じゃぁねー!」

結局最後まで名前は思い出せずじまいだったが、割と付き合いやすい子だと思う。さっぱりしていて。
まぁ、しかしまったく惜しい気持ちが微塵もわいてこないのは、多分自分が「彼女」に惚れているからなのだと思う。
だからこそこのたった2日合わないくらいで顔を見たくてたまらないのだ。
ただ、このゲームは新開からいろいろと望んではいけない関係を続けることが、ゲーム続行の方法なのだ。

会いたいと思っても会いに行ってはいけない。
名前を呼びたいと思っても呼んではいけない。

当たり前を当たり前にできない、このゲーム。なかなかにしんどい、と思った。


そうこうするうちに、日もすっかり落ち辺りは真っ暗に。
さすがにこんな時間に来ることはないだろうと、今日はしぶしぶ諦めた新開は重たい腰を上げ、寮へと向かった。

ゆっくりと歩く間、携帯が鳴った。
メールの返事かとあわててポケットから取り出すと、それはメールの着信を告げる音ではなく、電話着信の音だった。

「なんだ電話か・・・」

電話をかけてきた相手の名前は、アンだった。

「・・・え!?」

ここ最近で一番驚いたと思う。それくらい意外だった。
驚きすぎてしばらくの間、足を止めて携帯の画面を凝視してしまったくらいだ。
そしてそのまま凝視し続けて、そのまま着信が切れた。

「・・・しまった!電話!かけなおさねぇと!」

慌ててリダイヤルをするも、1コール、2コール、3コール・・・出ない。
何故だ。今しがた電話をかけてきたのに。
もう一回かけなおそうかと思っていたら、向こうから再び電話がかかってきた。もう一度言う。何故だ。
不思議に思いながらも、通話ボタンを押せば、当たり前だが声が聞こえてくる。

『新開くん、電話かけて大丈夫だった?』
「あぁ、悪い。ぼーっとしてて間に合わなかっただけなんだ」
『なんだ。良かった・・・こないだのこと気にしてたみたいだから、会いに行こうと思ったけど今日ちょっと無理で、メールで返事しようかと思ったんだけど上手くまとめられなかったから電話・・・してみました』
「メール見たんだな。って言うか、俺さっき電話かけたよな?なんででなかったんだ?」
『だって、新開くんからの電話だと、新開くんにお金かかっちゃうから』
「・・・おめさん、ミョーなところに気が付くよな」
『私の用事なのに相手にお金かけるのもなって・・・そもそも私、カケホだからお金かかんないし』
「電話もメールもほぼ使わないのにカケホ?」
『使うことがあるからカケホなの!その・・・予約、とか』

よく分らない、とは思った。予約ってなんだ。毎日かけるような電話でもないだろうに。

『そんなことより、おとといのことは怒ってないよ。・・・あ、いや、やっぱり怒ってるかな?あんなに笑われて』
「あー・・・悪かった。つい」
『つい、って・・・あんまり悪いと思ってないでしょ、新開くん。いいけどね、新開くんが楽しかったんならそれで』
「くしゃみ治まったか?」
『うん。心配してくれてありがとう。でも残念だな。ウサ吉もう抱っこできない・・・』

心からの無念が伝わる声色だった。最初で最後のふれあいだったわけだ。

「動物駄目なら、動物園なんか行ったら大変だろうな」
『そうだねぇ。行くんなら水族館だろうね』
「じゃぁ今度の休みに行くか?水族館」
『いくー!』
「ははは!いい返事だ」
『水族館って何時から開くのかな?』
「昼飯食って、そっから行けば間違いないだろ」
『そっかー。じゃぁお昼ごろにいつものコンビニで待ち合わせね』
「分かった」
『じゃぁ次の休みに会おうねー!おやすみ』

そう言うなり返事も待たず切られてしまった。よく言えば潔い。

「・・・つーか、マジで・・・?」

飼育小屋はあんなに渋ったくせに。何故だ。
とりあえず、こうもあっさりデートが決まったことに動揺が隠せなかった。


* →#
←←
bkm



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -