「呼び出しといていねーとかふざけんな!」

エドワードは叫びながら机を殴りつけた。





ドイツ、ミュンヘン支部。本部ヴァチカンのローマ教会により設置されたものである。最近は魔物、悪魔、吸血鬼、エトセトラエトセトラの大量出現により、左遷地となってしまっている。
現在はグラマンが司令官だが、実際はロイが務めているようなものだ。
そして、弱冠十五歳にしてエクソシストになったエドワードが一応所属している所でもある。エドワードは根無し草で、あちこちを回って弟と仕事をしているため、ミュンヘン支部には基本いないのだが。
その彼が今回ミュンヘン支部へと呼び戻された。そして冒頭へと戻ることになる。
若干不機嫌気味にロイの執務室へ乗り込んだはいいが、当の本人がいない。
どういうことかとホークアイに尋ねると。

「ごめんなさいエドワード君。あの人、本部に呼び出されてて」

わざわざこなしていた依頼を予定より早く片付けて来てみれば、である。エドワードの短い堪忍袋の緒は切れた。

「あんのクソヤロウ! ぜってー殺す」
「兄さん口悪いよ」

弟に窘められるが、知ったことかとエドワードは憤慨していた。
見兼ねた弟、アルフォンスがホークアイに呼び戻された理由を尋ねた。
ホークアイはすぐに数枚の資料を兄弟へ手渡した。

「最近上級の魔物が出没しているの。それだけなら私達だけでも何とかなるんだけど、そうはいかなくて」

アルフォンスは手元の資料を見て納得した。

「上級悪魔、ですか」
「そう。裏で糸を引いているようなの」
「そんで俺達?」

エドワードが資料をロイの机に投げ出して聞く。ホークアイは頷いた。

「んじゃ、ちゃっちゃとやろうぜ。行くぞアル」

ホークアイとアルフォンスの返事を聞くこともなく、エドワードは部屋を出て行った。
置いて行かれた二人は顔を見合わせて苦笑した。




***

エドワードは市街を歩いていた。
その後ろにはアルフォンスとホークアイに遣わされたハボックの二人。
魔物相手ということで(別にエドワードやアルフォンスが不得手な訳ではないが)同じ魔物同士、と人狼であるハボックを引っ張ってきた。
ハボックのように魔物を狩る側に所属する者も多い。

「大将イライラしてんな」
「そうですね、迷惑かけてすいません」
「いいってことよ。お前ら兄弟といんの好きだし」

強いし安心だよ、と快活に笑ったハボック。実際兄弟は彼に懐いている。
ところで何処に向かってんだ?とハボックが疑問を口にした。
アルフォンスは僕もわかんないです、と答えてから兄に問い掛ける。
振り返ったエドワードの手にはいつの間にかコンパスが握られていた。

「資料にあった魔物が出没した場所から予測した、次の出没場所」
「あんだけの資料でわかんのかよ……」

人間かお前、と人間ではないハボックに言われてしまった。エドワードは頭を指差して、ここが違うんだよ、と言った。
ハボックは呆れ顔で肩をすくめた。
隣ではアルフォンスが苦笑いをしている。
と、まあそんな感じで歩いていた三人。
街の西側に差し掛かった辺りでエドワードがピタリと足を止めた。
視線の先には何もなく人もいない、薄暗いだけの道。
一本の路地を見つめ後ろの二人を振り返った。

「たぶんここだ」
「……ここ何もねえぞ?」
「あ、でも何か変な気がします」
「まじで?」

全く、この兄弟は勘が良すぎる。
ハボックはげんなりと肩をおとした。
助かっている部分が非常に多いのは認める。だが首を突っ込まなくてもよいところにまで関わっているのは事実だ。
ハボックが思考を飛ばしている間に兄弟は着々と準備を開始していた。
聖油を辺りに撒き、ストラを取り出す。
ストラはアルフォンスの首にかけられ、あっという間に準備万端。
仕上げに、とエドワードが言って何かの(恐らく動物の)血が入った瓶を取りだして辺りにまく。

「ほんとは人の血がいいんだけどな」
「なるほど、おびき出すってわけか」
「そゆこと!」

ご明答!とエドワードが笑う。
そういうところは子どもらしくていいのだ。ハボックはエドワードの頭をぐしゃぐしゃと掻き交ぜた。
やめろ縮む、と叩き落とされたが。
そんなくだらないことをしている間に、アルフォンスは自分の作業を終わらせていた。

「兄さん、結界はったよ」

じゃれる二人の元へ駆けてきてそう報告した。
エドワードはニヤと悪い笑顔を浮かべる。隣でハボックが青ざめたのをアルフォンスは見た。

「さあて、夕方まで待機だな」
「はーい」
「お、おう」

路地から離れた三人。時間つぶしと称してハボックが喫茶店で奢らされたのはまた別の話だ。


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