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「吸血鬼」って、知ってる?
人間の血を飲む化物?…うん、だいたいあってる。
好物は処女の血。別に他の血も飲めるけど、綺麗な血液しか飲みたくないんだよね。
あ、でも別に干からびるまで吸い尽くすってわけじゃないんだよ。
ペットボトル二本分くらい飲めれば数日は持つかなぁ。
これも長いこと人間社会で暮らしてきた「適応力」ってやつだね。
太陽の光は相変わらず苦手だけど、日が出てる時間はサングラスとか日傘をさせば大丈夫だし、十字架とかは見たりも触ったりもしないし。
ニンニクだって食べなきゃいいし、水が流れてるところは渡れない、けど。
普通に生活する上では何不自由なく生きていける。
食事には困らない。最高の職場だね。女学校の先生、なんて。
「あの……エンヴィー、先生?」
頬を紅く染めた、いかにも清純そうな女子生徒。うん、美味しそう。
「…どうしたの?」
「……っ…!」
私立の学校ってだけあって、お嬢様が多い。だから巷ではお嬢様学校、なんて呼ばれてるわけだけど。親にちやほやされて育ったお嬢様たちに、男性経験がある子なんてほとんどいない。それに一年毎に新しい処女が入ってくるんだよ?まさに飲み放題食べ放題ってね。
何が食べ放題、だって?
そんなの決まってるじゃないか。
「…ふふ、だまってたらいい様にしちゃうよ?」
「っ……ぁんっ……」
初々しいお嬢様の血を吸ってから、性的にお食事するってこと。
正直こっちのお食事の方が好きだね。気持ち良いし、人間の苦痛に歪む表情は大好きだ。
吸血鬼って便利だよ?
血さえ吸えれば一週間は何も食べなくて良いし、この眼ひとつで女なんて簡単に落とせる。逆に言えば、愛とか恋とかそう云うのには興味無い。ただ知識として脳内にあって、それを利用してるってだけ。
利用してる、なんて言っても、眼力で催眠かけるだけでイケるんだけどね。
「せんせっ……痛っ…」
「痛かった?ごめんね」
噛んだ時に痛がれば、優しく謝ってあげる。黒く長い髪をかきあげながら、極上のキス。
そうすれば処女は嬉しそうに微笑む。
(人間って優しくされただけで舞い上がるんだよな)
長年生きてきた経験で培った知識が、より一層人間と共存しやすくしてくれる
淑やかで清楚で浅はかな処女たちは、みんなみんな、このエンヴィーの餌に過ぎない
(吸血鬼万歳、なんてね)
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