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「……ちょっと、痛い…」
「え、…あっ、ごめん」
腕を離すと、キャリーは不思議そうな顔で僕を見た。
「えっと……大丈夫?」
「何が?」
「何っ…て……」
完全に衝動だった。
彼女の溜め息が聞こえる。
「……別に、気にしてないから」
直感で、悪口のことだとわかった。
「でも、」
「言わせとけばいいよ、あんなの」
彼女はどうでもいい、といったような口調で語る。
久しぶりの会話なのに、そっけなくて
それがなんだか、寂しかった。
「…あのさ!」
教室に戻ろうとするキャリーの後ろ姿に向かって、叫ぶ。
彼女は何も言わずに、足を止めた。
「……僕のこと、覚えてないの?」
しばらくの沈黙。
つぶやくような声がそれを遮った。
「 覚えて、ない 」
離れていく後ろ姿が遠くて、
追いかけることすらできなかった。
(私になんか、構わないでよ)
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