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 3-2



昼休みも、掃除時間も、朝も夕方も


毎日話し掛けに行った。


渋々ではあったけど、キャリーは僕と話してくれるようになった。




クラスメイトの反応は、まぁ、悪いけど







「今日の体育って水泳、だっけ?」


「そうだよ」


「僕泳ぐのって大好きなんだよね」


「ふぅん」



会話は短かったけど、それでも満足だった。

いつか思い出してくれる、そう信じているから。




「アルーー!!どこだーーー!!」



聞き覚えのある声が僕を呼んだ。

兄さんだ。



「アル!!悪ぃ!!ちょーっと水着貸して!!」


「何で水着忘れたりするの…今日僕も水泳あるんだから、すぐに返してね」


「サンキュー!アル!すぐに返すっ!!」



バタバタと大袈裟に音を鳴らして去って行く兄さんを見送った。


水着の貸し借りなんて、兄弟じゃなかったら流石にしないんだけど。





キャリーの席に戻ると、彼女は以外なことを呟いたんだ







「……変わってないてね、エド」













*














無意識だったのかもしれない



でも確かに、キャリーは兄さんのことを「エド」って呼んだ



本当は、彼女は昔のことを覚えているのかもしれない



そうだとしたら何故、「知らない」と嘘をつくのだろう





何か、理由があるのだろうか




















放課後。



帰り支度をする時間、何故か教室にキャリーの姿が無かった。


クラスメイトに聞くと、まだ更衣室から戻ってないらしい。


何かあったのだろうか。


僕はこっそりと教室を抜け出し、プールの側まで走った。







更衣室の前まで、プール独特の塩素の匂いが充満していた。


水浸しの足元、生徒たちの足跡が形を残している。


男子更衣室と女子更衣室は隣り合わせになっていて、


当然の如く男子更衣室には誰も居なかった。


僕は外から、女子更衣室の方に向かって、誰かいるの、と叫んだ。


少しの間のあと、控えめにガラガラ、と扉が開かれて、中にいたのは、キャリー、だった。




「……キャリー?」



彼女は扉の隙間から顔を覗かせていた。キャリーは水着を着たままで、濡れた髪はそのまま、呆然と立っていた。
僕と目があった途端、バシン、と音を立てて扉が閉まった。



「っ……、どうしたの、キャリー!」


思わず扉に向かって叫ぶ。


「何が……」





「 帰って 」





扉の向こうで、声がした。




「キャリー…」



「 構わないでよ、私なんか 」



その声は弱々しく、震えていた。

扉のすぐ向こうで、彼女の気配を感じる。




「 帰ってよ…… 」




力いっぱい扉を開けると、彼女は驚いた顔をしてこっちを見た。

彼女の目は濡れていて、赤く腫らしていた。




「 …っ、見ないで…… 」


「何があったの」





俯いて目を合わせようとしないキャリーの腕を掴んだ。

それでも彼女は、顔をあげようとしない。




「制服は…?」



彼女は何も言わず、俯いたまま黙っている。

掴んだ腕は、微かに震えていた。



「ねぇ、どうしたの?」



「何で、私なんか……」



「キャリー?」



「忘れてよ、もう…私はっ……!!」



ボロボロと涙を流すキャリーを、思わず抱き締めた。

水着越しの彼女は細く冷たかった。



「…アル……?」



「忘れないよ、だって…」



約束したから。






『離れてもずっと一緒だよ』






『わたしのことわすれないでね』






忘れるはずが無い。










だって君はーーキャリーは僕の











最初で最後の、大切な人



















「好き、だから」









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