2014クリスマス企画 | ナノ

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灰色の壁に囲まれたまるで生活感の無い空間に、簡素なベッドがひとつ。
以前私が使っていたままだと云うのだから、記憶を失くす前の私は一体どの様な趣味があって、何を好んで、何を嫌ったのか、推し量る手掛かりはあまりにも少なかった。

一通りの仕事を終え、その簡素なベッドに寝転がると、枕元に畳んでおいた黒いケープコートが目に映った。
横手に掴み、頭上で広げると、解れの一つもない品のある形が姿を現す。
一世紀の時を経て、再び同じ服に袖を通す等、誰が予測しただろう。
自分の物など何一つ残してはいなかった私が、唯一大切にしていたモノ。

その思いも、理由も、今の私は知る由もない。



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