▼ エピローグ
光の眩しさに目を覚ますと、簡易ベッドの上、抱きしめていたエンヴィーが居なかった。
不安と焦燥感が募る。
ベッドを飛び出し、彼の名を呼ぶと、意外にもすぐに返事が聞こえた。
「どうしたの?かおる」
キッチンの方から顔を出したエンヴィーは…何処か、違う。
「エンヴィー…?」
「見て、これ」
彼が指さしたのは、自分の耳。
「!!……耳が…」
「尻尾も、無いよ」
くるんと後ろを向くと、あの黒くて長い尻尾の影すらなくなっていた。
「人間になりたいって、思ったんだ。そうしたらね、なくなっちゃった」
「それって…」
「もう人目を気にせずに歩けるし、…一緒に、パフェも食べられるね」
思わずエンヴィーに抱きつくと、彼からは優しい香りがした。
「かおるのお陰だよ」
「エンヴィー…エンヴィー…!!」
長い黒髪が私の頬を掠める。
エンヴィーは私の唇に触れるだけのキスをすると、優しく微笑んだ。
時計は8時5分を指している。日の光が差し込む暖かい日曜日の朝、ひとりと一匹だった私たちは、"ふたり"になった。
「大好きだよ」
「うん」
「ずっと一緒にいようね」
END